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『私は何回も言ったんだよ? 別のにしなって。でも、剛健は拘った。この料理は絶対に俺の料理でなくてはならない。いのたにという看板をこの皿で予想させてはならないのだって』
ホント変な奴なんだよね。
毒を吐きながらその声は嬉々としている。
やはりゴールデンカップルだな。
否定をしつつも、そこに良さを感じる。
そういった相手にいつか俺も巡り合えるだろうか。
思った瞬間、桜庭日和の声が聞こえた。
ユダに対して「シュウくんは良い人ですよ」と怒ってみせた彼女の言葉が脳の中に沁みてゆく。
俺は馬鹿だ。
桜庭日和の発言は、誰にでも平等に与えられるものだとわかりきっている。
なのに、どこかで自分が特別なんだと勘違いしそうになってしまう。
『えっと……何が言いたいかっていうとね、私も剛健も日和ちゃんが料理が下手だって知ってるんだ。だからね、そこは修二郎君がサポートしてあげて? 日和ちゃんが作りたい料理のイメージを形にするお手伝いをしてあげてほしい』
「気持ちの具現化」
『そう。修二郎君にならできるよ!』
「もし……駄目だったら……」
『出来るまで実践あるのみ! だけど、私は信じてるよ。修二郎君は優しい子だから、絶対に日和ちゃんの声に応えてあげられるって』
いい先輩である。
彼女が俺の姉だったならば良かったのにと思えるほどに。
『あ、この試験は修二郎君にとっての試験でもあるんだからね。ちゃんとそこは意識して取り掛かること』
ふむ、意識か。
桜庭日和の理想を形にするために一助となりうるために俺が出来ること。
彼女の荒唐無稽な理想をなるべく形にするというミッション。
何としても成し遂げなくてはなるまい。
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