第二章【美食研究会】

16/22
前へ
/207ページ
次へ
 それを実現させるには如何様な事を為せばいいのだろう?  目を閉じ、じっくりと考えてみる。 『私、みんなを笑顔にしたい』  ふと、脳内で声がこだました。  妄想の中に登場する彼女は、相も変わらず同じことばかり言う。  桜庭日和。  どうして君は誰かのことを心配出来るんだ。  俺でさえ、自分のことで精一杯なのに。 「自分に……出来るだろうか……」 『うーん、もしも日和ちゃんだったら素直にできるって言うだろうね。でも、私ってさ、結構ひねくれものなんだ』 「どういう意味……ですか」 『修二郎君って誰かに信頼されることをプレッシャーに感じるタイプでしょ? だから、誰かが信じてくれているってわかると失敗できないんだーって、なっちゃわない?』  黙って頷く。  この素振りは決して桐野氏には見えていないはずである。  だが、彼女はそれを確認したかのように笑声を出した。 『だから、私はできるって言い切るよ。修二郎君にプレッシャー与えちゃうってわかっててもね』  実は剛健よりも厳しいんだぞ、と茶化す桐野氏。  そうだな。二人ともとてもキツいと思う。  猪谷氏は拳で俺に訴えかけ、桐野氏は言葉で俺の気持ちを揺さぶる。  流石は夫婦だ。  コンビネーションが神がかっている。 『がんばってね。それじゃあ私、そろそろ宿題やらなきゃだから』 「承知。では、また部活の頃に」 『日和ちゃんにも宜しくね。あ、これは修二郎君と湯田君の両方に言ってるんだからね? じゃ、バイバイ』  電話が切れると同時に机に携帯電話でインターネットのページを開く。  理由はひとつ。  桐野氏の言葉が色褪せないうちに、桜庭日和の意思に応えられるようなサポートをしなければならないと思ったからだ。    
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加