第二章【美食研究会】

17/22
前へ
/207ページ
次へ
 雑誌に載せて楽しいもの。  否、桜庭日和に教えられるものがいい。  まずは、教え方だ。  料理を分類することでわかりやすく説明したいものだ。  しかし、そこでは分け方というものが問題点となる。  例えば御崎美鶴が得意なものは卵と野菜を使った料理。  それを補うように様々な食材の知識を駆使して、味と栄養を両立させた繊細なものを作り出す。  いわば散り散りになった食材をかき集めてオブジェにでもしたような芸術だ。    対して仁神彩月はひとつの材料をとことん突き詰めてゆくスタイル。  特に魚介類を扱うのが得意だ。  皿を出されただけでメインとなる食材がわかるようなインパクトで相手に強く訴えてゆく。    小学生の頃に見た料理大会の決勝戦にて。  御崎美鶴と仁神彩月は互いに意思をぶつけ合った。  結果としては仁神彩月が勝利したのだが、俺は納得がいかない。  御崎美鶴が砂糖と塩を間違えて使用するわけがないのだ。  俺は決勝トーナメントに参加した際、御崎美鶴の弟と戦った。  素材を冷やすことによって、人間の味覚を操る男と。  そんな男を弟に持ち、しかも決勝まで勝ち上がる実力を持ち得る人間がそのようなミスをするのは無理があるのではなかろうか。  ……まあいい。  問題点にすべきことは桜庭日和が作る料理の方向性を決めることだ。   「俺が得意なものは中華……」  ジャンルを細分化すれば広東料理。  正確に言えば四川料理も心得ている。  スパイスやハーブのことに関しては、少しだけなら語れるだろうか。  さて、どうしたものだろう。  こういう時、御崎嘉菊がいてくれれば助かるのだが。 「……むうん」  メッセージアプリのジョイント(御崎嘉菊に無理矢理ダウンロードさせられたもの)で通信できれば良いのだが、彼は旅に出ている。  それからというもの、最後に送られた「わりぃ、ちょっとブロックする。旅行の邪魔されたくねえんだ」という文字を最後に、いくらメッセージを送っても既読が付かない。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加