第二章【美食研究会】

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 言葉を失うとはまさにこのことである。  俺は一体、彼に対してどのように返事を送ればいいのだろうか。  しばらく考え込んでいると、電話が振動した。  これはアプリによる通話機能で呼び出しをくらっている状態だ。 「もしもし……」 『数秒前、料理のアドバイスをしていただきありがとうございます。その後のメッセージはエラーで見えませんでした。さあ、復唱しろ』 「ど、どど、おろろ」 『す・る・ん・だ』  威圧感ある声に圧倒されると、復唱を急かされた。  ゆえに、 「料理のアドバイス以降のメッセージがエラーで見えなかった。ああ、あ、あれは、な、ななっんだったのだろう」 『ああ、さっきのことだな。僕が魚を勧めた理由は、魚の種類によって味わいも食べられる部位も違ってくるからだ。マグロなんてヒレとエラ以外は料理にできるし、シラスはまるごと食べるだろう? 肉や野菜を料理するよりずっと面白い』  大人しく指示に従うしかなかった。  しかし、そこから想定外にも貴重な意見を頂くこととなる。 『牛肉並みに食べられる部位が異なる面白さがマグロにはある。だから僕のマイブームはマグロだ。シラスやサクラエビもいいけれど、個人的には断然マグロだな。言いたいことは以上だ』 「承知」 『いきなり電話して悪かった。くれぐれも鳳の件は黙っていてくれ』 「問題ない。二人で楽しんでくるといい」 『ありがとう。驚かせてごめん。じゃあ、おやすみ』  上機嫌な声で謝罪されたかと思うやいなや、通話が終了する音がした。  ありがとう、ごめん……か。  本来、感謝と謝罪の気持ちを伝えねばならないのはこちらの方なのに、余計な気を遣わせてしまったな。  御崎美鶴。君のおかげで、桜庭にかけるべき言葉が見つかった。  問題はそれを俺が話すかユダが話すかなのだが……。
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