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言葉を失うとはまさにこのことである。
俺は一体、彼に対してどのように返事を送ればいいのだろうか。
しばらく考え込んでいると、電話が振動した。
これはアプリによる通話機能で呼び出しをくらっている状態だ。
「もしもし……」
『数秒前、料理のアドバイスをしていただきありがとうございます。その後のメッセージはエラーで見えませんでした。さあ、復唱しろ』
「ど、どど、おろろ」
『す・る・ん・だ』
威圧感ある声に圧倒されると、復唱を急かされた。
ゆえに、
「料理のアドバイス以降のメッセージがエラーで見えなかった。ああ、あ、あれは、な、ななっんだったのだろう」
『ああ、さっきのことだな。僕が魚を勧めた理由は、魚の種類によって味わいも食べられる部位も違ってくるからだ。マグロなんてヒレとエラ以外は料理にできるし、シラスはまるごと食べるだろう? 肉や野菜を料理するよりずっと面白い』
大人しく指示に従うしかなかった。
しかし、そこから想定外にも貴重な意見を頂くこととなる。
『牛肉並みに食べられる部位が異なる面白さがマグロにはある。だから僕のマイブームはマグロだ。シラスやサクラエビもいいけれど、個人的には断然マグロだな。言いたいことは以上だ』
「承知」
『いきなり電話して悪かった。くれぐれも鳳の件は黙っていてくれ』
「問題ない。二人で楽しんでくるといい」
『ありがとう。驚かせてごめん。じゃあ、おやすみ』
上機嫌な声で謝罪されたかと思うやいなや、通話が終了する音がした。
ありがとう、ごめん……か。
本来、感謝と謝罪の気持ちを伝えねばならないのはこちらの方なのに、余計な気を遣わせてしまったな。
御崎美鶴。君のおかげで、桜庭にかけるべき言葉が見つかった。
問題はそれを俺が話すかユダが話すかなのだが……。
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