第三章【かっこいい】

2/23
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
 ――○――○――○――  俺のクラスには御崎美鶴と鳳かざみがいる。  御崎嘉菊と桜庭日和、そして仁神彩月は隣のクラスだ。  ゆえに、この人見知りで臆病者な俺が桜庭と仁神彩月の情報を得るには、御崎美鶴か鳳かざみに訊く他ない。  と、思っていたのだが。 「おーい、中須賀君。仁神っていう子が呼んでるぞ」 「はっ!? 彩月さんがですか? 俺が会いに行こうと思っていたのですが、先手を打たれた模様ですね」  どうやらここには仁神彩月を知る存在がいるらしい。  中須賀という名前か。料理で名をあげた男ではないな。  見た目としては、昭和時代のドラマなどで登場しそうな番長を彷彿とさせる。  しかし、その巨体とは似合わぬ敬語使いの所為か、周囲からはめっぽう好かれている模様。  どのような人物にも優しく接する優しい不良である。 「彩月さん、古文の教科書をお貸し頂きありがとうございます」 「い、いいのよ。その……頼ってくれると私も嬉しいし……ま、また借りに来なさい」 「ですが、そこまで気を使っていただくのは申し訳……」 「じゃ、じゃあ……今度の空いている休みに映画に行きましょう。もちろん貴方のお金で」  なにやら、いつもの仁神彩月と反応がことなっている。  渡された古文の教科書を抱える腕が震えているし、普段の饒舌さに陰りが見えているような……まるで緊張をしているような反応だ。  恐喝でもされているのだろうか。  例えば、過去に仁神彩月が中須賀何某に言葉の暴力を振るったところ、あっさりと反撃されたことにより、主従関係が芽生えたのではなかろうか。  そうなると、この中須賀という男は相当な手練れである。  能ある鷹は爪を隠すのであろうか。  彼の恰好からは、とても仁神彩月を論破できるほどの頭脳があるとは思えない。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!