第三章【かっこいい】

4/23
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
 この場で俺が言えることはただひとつ。   接点がなくてよかったという言葉に尽きる。  もしも、俺と彼が友好関係にあれば、視線が合うことによる流れ弾が飛んでくることだろう。  ちなみに、その役割を担ったのは御崎美鶴である。  彼とも関わりがあるということは、どうやら中須賀玄馬は料理を極めんとする者のようだ。  俺としてはコミュニケーションを図りたいところだが、御崎嘉菊と違って彼とは接点がない。  静観しよう。   「仁神と何を話してたんだ?」 「古文の教科書を貸して頂いたんです。そのお礼として映画館のお金を出すようにと言われてしまいました」 「なんだ? 嫌なら嫌だと言えばいいだろう」 「い、いえ。言うほど嫌ではなくてですね。ただ、断る理由もないですし、恩を返す大義名分になると考えましたので」  義理堅い男だと思う。  もし、自分が同じ立場なら教科書を返してからは無関係でいれるようにさまざまなアプローチをかける。   「さ、さすが中須賀君だね。あとは見る映画を選ばないと。女子は男子にエスコートしてほしい子が多いから、ちゃんとリードしてあげてほしいな」  ので、厄介になるのが鳳かざみのような茶々である。  部外者であろう存在の援護射撃ほど逃げ道を防ぐにおあつらえ向きなものは在りはしない。  しかし、中須賀玄馬は嫌な表情ひとつ浮かべず。 「そうですね……そうだ! 俺の弟と妹が見たい映画があったんですよ。ポータブルモンスター……ポタモンって知ってます?」  爽やかに歯を見せて笑う。  だが、 「それはダメだよ!! 女の子が勇気出して映画誘ったんだよ!? なのに、きょうだいの世話をする片手間にしちゃうなんて……彩月ちゃんが可哀想すぎるよ!!」 「お、鳳はどうしてそこまで必死なんだ?」 「あ、え、えっと……ほら、サツキちゃんって怒ったら怖いでしょ(うう、彩月ちゃんゴメンね……)」  御崎美鶴に会釈をした鳳かざみが仁神彩月に懺悔をしたような声がした。  なるほど。彼女は仁神彩月の派閥に加担しているのか。  この学舎のヒエラルキーは奥が深いな。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!