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「アレが怒ったところで中須賀にはデメリットがないだろう」
「デメリットがあるのは中須賀君じゃなくてサツキちゃんの方だよ……」
仁神派閥に与している鳳は御崎美鶴を派閥に引き込もうと画策している。
だが、カフェバーでの話し合いの結果は非常に芳しくなかった。
そこに現れたのが中須賀玄馬だ。
恐らく鳳かざみは彼と御崎美鶴が友人であることを把握していたのだろう。
御崎美鶴よりも仁神彩月のことを中立的な立場で認識できる存在を味方に引き込めば、芋づる式で御崎美鶴というキーパーソンを引き込める。
そうすれば、ひとつの疑問が残る。
仁神彩月はどうして料理部にも美食研究会にも属していないのか。
調べたところ、現在の彼女は帰宅部。
あれほどの実力者が二つの部活に興味を持つことがないなど考え難いことである。
「中須賀君。サツキちゃんとは二人で行ってほしいな。きっと、その方が喜ぶよ」
「でも、相手が無理を言っていることだろう? 古文の教科書を貸した対価として休日を犠牲にするというのは、釣り合ってなさすぎる。あまりにも中須賀が気の毒じゃないか」
「御崎君。私、御崎君と土日にいっぱい過ごしてきたよ。ラーメン食べたり日曜市に行ったり料理作ったりしたよね」
「鳳……もしかして嫌だったか? 僕は無意識のうちに君を泣かせてしまうようなことをしたのか?」
「違うよ。私はすごく嬉しかった。そりゃあ、確かに時々困るようなことはあったけど、そういうことも含めて嬉しいんだよ。どうしてかわかる?」
聖女のような優しい声がする。
周囲には聞き取りづらいだろうが、彼女の喉を震わせる言葉の色は御崎美鶴に向けられたものだった。
「どうして?」
「御崎君がずっと私のことを見てくれるのがわかるから。御崎君と会うまで、ずっと独りぼっちだったから、そういうのすぐにわかっちゃうんだ」
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