第三章【かっこいい】

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 酢飯を完成させれば、あとは冷ますだけ。  盛り付けさえすれば、食べてもらえる。  大丈夫、きっとうまくいってるから。  桐野先輩に渡された団扇をつかってご飯を冷まそうとした。  その瞬間、 「うん。きっと味は申し分ないね。きちんと全体に酢が混ざってる。料理の経験はどのぐらい?」 「入学してからです。ホントは中二の頃から興味あったんですけど」 「そっか。じゃあ、そのうえで質問」  団扇の風で漂う匂いを嗅ぎながら桐野先輩は笑った。 「この料理、今度はひとりで作れる?」 「わからないです。でも、絶対に作ります!」 「修二郎君はどう思う?」  私の言葉を噛み砕くように聞いた先輩がシュウくんに質問した。   「自分はできると思います。この料理を考えたのは他でもない桜庭日和です。実のところ桐野氏から桜庭日和の協力をしてもいいと聞いたとき、余裕だと思っていました。けれど、そうじゃないと思い知りました」 「どうして?」 「自分は料理の経験者だ。ある程度の料理なら作ることができる。しかし、彼女と違って物事を捻る能力があまりにも乏しい。彼女の構想という土台がなければ、ここに皿を持ってくることすら不可能でした」  シュウくんがさらに言葉を付け加える。 「仮に桜庭日和がこの料理を作れないとしても、新たなものを用意することはできる。同じものを作れと言われれば、それを昇華させられる可能性も大いにあるということです」 「修二郎君がここまで言うなんてね。うん、そうだね。私の一存で合格にしてあげちゃってもいいかな」  桐野先輩がピースサインをこっちに向けた。  そして、 「全部食べたいけど、どうしようかな? 剛健に怒られちゃうなぁ。」  にへらーと笑った桐野先輩。  喜んでくれてよかった。
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