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第四章【美少女】
『御崎君と副業』
午後四時三十分。
一緒に帰ろうと御崎君に誘われなかった私は、御崎君のことが心配になった。
だから、行きそうな場所を探してようやく見つけられたんだけど。
「テイストを変えたのがよくないのか? いつも通り自分らしさを貫く系で攻めたほうがいいかな」
図書室で来る者拒むオーラを出している御崎君、すっごく近寄りづらい。
でも、話しかけなきゃ話しかけないで、寂しそうな顔するし。
うん、声をかけよう。
「あの。み、御崎君……何してるの?」
「ああ。副業をしているんだ。教室ではやり辛いから放課後の誰もいないタイミングを狙ってやるようにしてる」
副業ってなんだろう。
山積みになっているのは料理の本の他に、日本の風俗史、鳥類図鑑、俳句の書き方、恋愛小説。
テーマがバラバラすぎて、何をしようとしてるのかわからない。
もしかしなくても、料理がメインだと思うんだけど。
「こういう風に何かに根を詰めるたびに思い知らされるな。料理が人生の縮図だってことを」
「突然どうしたの?」
「例えば僕はキミの事が好きだろ?」
「う、うん……って、なんで私に聞くの」
「僕はキミと幸せになる為の方法をその場に落ちている材料だけでレシピを見ずに作り上げているんだ。非合理的で疲れるけれど、すこぶる楽しいよ」
眩しいくらいまっすぐな気持ちをぶつけられた時、私は困ってしまう。
好きだって思われるのは凄く嬉しい。
でも、御崎君からの強い思いが胸に沁みるたびに思う。
この子が情熱を捧げる価値が私にあるのかな?。
もし、付き合ったとして、私は御崎君に何をどれだけ与えられるんだろう。
それがわからないから、私の答えは保留のまま。
つまり、自分の中で気持ちが整理できるまで御崎君には辛い思いをさせ続けるということ。
「今やってる副業もそんな感じだ。でも、せっかく好きな人が会いに来てくれたんだ。その気持ちに応えるのは当然の義務だよ」
色々考えているうちに副業のこと、聞きそびれちゃった。
なにやってるんだろうなあ、御崎君。
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