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ヒロインを奪還するのはラブコメディの定石だが、それが美談になるのはあくまでもヒロインが未だ元夫を好きな場合に限られる。
ハッピーエンドは見世物としては美しいが現実はそれほど甘くない。
いくらリアリティある内容とはいえ所詮は作りものであり、小説の世界だ。
生身の人間の人生がそんなドラマティックな展開をするわけがない。
大体これ以上どうしろというのだ。
俺はきれいさっぱり振られている。
それに、仮にやり直したところで上手く行くはずがないと梓は言った。
いくら直子が提案した、まさにタイトルの『チョコレイト・ラブ』という愛の形があったとしても、梓がそれを受け入れ、前向きに考えてくれるとは思えない。
もう一度、最後のページをめくる。
突然に終わっている文章の後にある真っ白な部分がいやに目についた。
ふと、周りが席を立ち始めたことに気づき、時計を見ると二十三時を過ぎたところだった。
どうやら閉店時間のようだ。
愛想のいい店員に見送られ店を出る。
いつもは賑やかで人通りの多い道も今は人もまばらで寂しい。
しかし考え事をしながら歩くには夜のオフィス街は最適だ。
身を包む、しんしんとした冷え込みに頭が冴えわたる。
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