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「今も好きなの……大好きなの」 「……好きって、俺を?」  慎重に尋ねると梓が嗚咽の合間にこくんと頷く。  腕の中の梓は髪だけでなく、服までもが芯まで冷えてきっていた。  大して効果はなさそうだったが俺は自分のコートの中に梓を包み込む。  そして、震えが少しでも収まるように強く抱く。  いや、本当はその意味を確かめたくて強く抱く。 「チョコレートがね、然と私みたいだって。一度砕いて溶かしてやっと美味しくなるの」 「……梓」  信じられない思いで名前を呼ぶと、 「もう一度、然との未来を信じるのは怖いよ」  苦しそうに言う。  しかし、その言葉に俺の身体が強張ったのを感じたのか、すぐに言葉を続けた。 「でも然を失うのはもっといやなの。直子が言ってくれた可能性を信じてもう一度やり直してみたいの。ホントは、ずっと……嫌いなふりをしてたけど、自分に無理やりそう言い聞かせてただけで……別れてからも然のことが好きだった」  梓が腕の中から顔を上げる。 「……私の幸せが、何かわかった?」 「ごめん。まだわかんない。だから梓が教えて。ちゃんと聞くから。それで必ずそれをかなえるから。今度こそ俺が幸せにするから」  このチャンスを逃したくないと必死で言う俺に、梓が首を振る。 「私の幸せはね、然と一緒にいることだよ」  たまらずその冷たい頬に俺は自らの顔を擦り付けた。  梓が涙を流しながら、あったかい、と笑う。  肌と肌を体温で慣らし、互いの温度が溶け合っていく。  そして、未だ凍える梓の唇に熱を分けるように口づけた。  どちらからともなく、深く交わりあい、梓の動きが解けたように徐々にやわらかいものになっていく。  唇を離すかわりに、今度は額と額をくっつけて、 「……でも、田崎先生は……?」  梓がここにいることがその答えだとしても、この瞬間に無粋だと言われようと、聞かずにはいられない。
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