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「おい、みんな席につけ」
教室に入って来た担任は若かった。
まだ二十代だろう。
残念なイケメンって感じで、少し怖そうな顔をしている。
「福田 鈴、立て」
…って、何、いきなり。
少しどころか、結構怖い顔。
あたしは、自分の名前がなぜ、いの一番に呼ばれたか理解した。
あ~あ、やっぱ入学式に遅刻はないよな、と諦めた。
はいはい、立ちますよ。
「何で遅れた」
サスペンスドラマで、犯人に凄む刑事のような声色で、担任教師が言った。
正直に話すのは面倒くさい。家の事情を初日からさらすのも御免だった。
あかねが同じクラスだと知ったいま、ハブることを心配する必要もない。
あたしは開き直ることにした。
「すみません、寝坊しました」
と、方便の嘘を言った。
いまさらバカ正直に本当のことを言っても仕方ないのだ。
適当な理由を言ってその場を流してもらおう、と思った。
その方が利口だろう。
後ろから、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
ま、いいや。別に好きな男子がいるわけじゃなし。
開き直りから投げやりへ、一瞬のうちにシフトする。
「立ってろ」
「はい」
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