第1話  急がば回れ

12/18
前へ
/576ページ
次へ
 こういうとき、席が一番後ろだったらなあ。  今日は授業があるわけじゃないから、すぐ解散になるだろう、と自分を励ます。  仕方なく、記念すべき高校生活最初のホームルームの間中、あたしは立っていた…というか正確には立たされていた。  担任の声が耳を素通りしていく。  高校生活のスタート、秩序、規律、勉学…。  小難しいことがいったいどれだけ耳に残るのか、あたしにはわからない。  数分後、あたしは右横から視線を感じた。  無視することもできたのに、何だかあんまり見られているので、気になってしまい、ちらりと右を見ると、隣の席の男子があたしを見ていた。  何だよ、こいつ。  これが、田宮翔太郎を見て最初に心に湧いた、正直な言葉だった。  まさか彼とあとあと散々関わることになろうとは、このときの私は夢にも思っていなかった。  相当なイケメンであることは間違いない。  芸能人にしたら、女の子たちがキャーキャー言って、すぐに売れてしまうような感じである。
/576ページ

最初のコメントを投稿しよう!

206人が本棚に入れています
本棚に追加