第1話  急がば回れ

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「じゃあ、福田」 「はい?」 「号令かけろ」  あたし? ですか。  早く帰りたいので、 「礼!」  と勢いよく言った。皆が先生にお辞儀をする。 「おーい、寄り道すんなよ」  椅子を動かす音に混じって、結構口うるさそうだ、などと後ろの方で囁き声が聞こえた。  あかねが寄って来る。 「ねえ、鈴、どうしたの。すっかり目立っちゃったよ」 「どうもこうもないよ」  投げやりに言うと、 「遅刻の原因、寝坊じゃないよね」  と、さすがわかっていらっしゃる。 「あ、わかる?」 「わかるよ。しっかり者のお姉ちゃんが入学式の日に寝坊するわけないもん」 「蘭がさあ、暴れたんだよ」  妹は逃げ回っていたけれど別に暴れていたわけではない。  姉の特権であたしは少々大袈裟に言った。 「え? 蘭ちゃん、今日、小学校の入学式だよね」 「だからさ、お母さんが職場から真っ直ぐ入学式に行くんだからねって、何度言っても聞かないの。挙句にせっかく着せたワンピース脱いじゃって逃げるし」 「それで遅れたの?」 「それだけじゃないよ」  かくかくしかじか。
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