第1話  急がば回れ

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 こんなことってあるだろうか。  高校の入学式に大遅刻をしてしまうとは。  降り注ぐ春の陽射し、桜の花びら。  学校へ向かう同期生たちとともに、今日の喜びを噛みしめながら悠然とここを歩くはずだった。  なのにいま、あたしは走っている。  しかも全速力で。  制服が汗臭くなったらどうしよう。  嫌だ。おろしたての真新しい靴が…。  ああ、もう、そんなこと気にしている暇はない!  急げ、急げと、まるで念仏みたいに心の中で唱えながらあたしはひたすら走る。  キャー!  お定まりのズッコケ。  コントかよ、おい、って自分に自分で突っ込みを入れる。  泣きたくなってくる。  この道、こんなに長いの?  きっと友だちとお喋りをしながら歩いたらあっという間なんだろうな。  いま、あたしは走っているというのに、道が長く感じるのは、なぜ?  周りの景色を目に焼き付けながら、ゆっくり、今日晴れて高校生になった喜びを噛みしめつつ歩きたかったのに。  周りの景色なんか見てる余裕は1ミリもない。  泣きが入る…。
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