第1話  急がば回れ

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 これからはじまるあたしの高校生活は、前途多難なのだろうか。  それともこれは、もしかして…。  今日の災難がこれから先三年間のうちに降りかかるかもしれないネガティブ要素をすべて引き取ってくれるという象徴的な出来事なのだろうか。  おばあちゃんがむかし言っていたっけ。  旅行の前日にテレビが壊れたとき。 「おお、よかったよかった。このテレビが旅の不幸を背負って持ってってくれたんだわ。いい旅行になるなァ」  そう言って、カラカラと笑っていたおばあちゃんに、高校生になったあたしの制服姿を見せたかったな。  残念ながらおばあちゃんはあたしが小学六年生のときに病気で亡くなった。  ああ、しんみりしている暇なんかない。  足、限界。もつれそう。  学校が見えたとき、あたしはケータイを取り出した。  アウト。  三十分も…。    心の中を虚しい風が吹いていった。  記念すべきこの日に、大遅刻。
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