第1話  急がば回れ

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 走れば走るほど犬は追いかけてくるってこと、頭ではわかっているけど、だからと言って立ち止まったりできるわけがない。  いや~。あんたは四本足で走れるけど、あたしは二本なんだから、そんなに全力で追いかけてこないでよ~。  あたしは必死になって走った。  どこをどう走っているのかわからない。  通学路とそれてしまったことだけは間違いなさそうだった。  と、右手に古めかしいマンションが見えた。  オートロックではなさそうだ。 「ええい、ここに逃げ込もう」  あたしはマンションに駆け込み、一気に階段を上がった。  犬の吠える声がひっきりなしにしている。  十階建て以上あるマンションの、八階の踊り場にあたしはしゃがみ込んだ。  いくらあの犬でも、ここまでは登って来ないだろう。  あたしは恐る恐る下を見た。 「マリリン、何やってんの!」  遠くから飼い主が叫んでいる。
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