第1話  急がば回れ

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 犬は尻尾を振って駆け寄っていった。 「駄目じゃない。勝手に走り出したら」  どうみてもマリリンという名にしては野暮ったい雑種の犬は、何事もなかったかのように 飼い主に連れられて再び公園内に戻って行くのが見えた。  ふう~。  あるまじき時間のロス。  急がば回れとはこういうときのことを言うんだね、と感心している時間はなかった。  おっと、急がなきゃ。  あたしはまた走り出した。  やっと乗った電車に、あたしと同じ制服を着た生徒はひとりも乗っていなかった。  そしてSヶ丘高校前で電車を降り、再びあたしは走り出した。  と、これがさっきまでの顛末だ。  三十分の遅れを知ったあたしは、もう諦めて走るのをやめた。  もうみんな、体育館に移動してんだろうな、と思うと悲しかった。  さすがに、入学式の途中で体育館に入って行く勇気はない。    ひとりぼっちで校門を入り、正面玄関前の掲示板でクラスを確認して校舎に入った。  なんか、寂しい。  いやいや、遅刻が何だ、と自分に言い聞かせ、校舎の案内板で1年3組の場所を確認。  3階か。  トボトボと階段を上がり、1年3組に入った。  黒板に座席表が貼ってある。  最初は出席番号順みたいだ。  福田 鈴  窓際から二列目の前から三番目。  私は自分の座席に座り、机の上に突っ伏した。  誰もいない教室にぽつーんとひとりでいると自分が惨めになりそうだった。
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