0人が本棚に入れています
本棚に追加
薄暗い闇のなかに、明かりとりのたて穴から差しこむ光がもれる。
この湿っぽく、薄暗い世界がトールン王国のすべてだった。
オニールは、トールン王国に生まれた。
長老たちは「我々は、昔はひろい外の世界にいたのだ」と話していた。
だが、オニールには、ひろい外の世界がわからなかった。
生まれたときから、地下に掘られた横穴のつづく、この湿っぽく薄暗い世界しか見たことがなかったからだ。
ただ、オニールは、明かりとりのたて穴のむこうに見える、青いどこまでも続くものが好きだった。
オニールはあきもせずに、青のどこまでも続くものを見つづけた。
長老のひとりが、それが「空」というものだと教えてくれた。
ときどき、その青をよこぎり隠してしまう白いものは、「雲」というのだとも教えてくれた。
トールン王国も、昔はその「空」のしたで栄えていたというのだ。
「空」は、ひろくどこまでも続き「雲」は、形をかえ、色をかえ、とても美しかったという。
戦争に負けたトールン王国の人々は、地下の洞窟に逃げこんだ。
敵の王国は、洞窟のなかまでは追ってこなかった。
ただ、洞窟からでたものは、容赦なく斬り殺した。
まるで、雑草を刈りとるように。
だから、オニールたちトールン王国の人々は「空」の下にでることができず、ずっと、この湿っぽく、薄暗い世界で生きてきたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!