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「ど、どっから入ってきたんだ...」
「どっから?あたしらはな、死にそうな人間だったり患ってる人間のところに現れる...来たってのは少し違う、現れる。これが正しい。もう現象のようなものさ」
喋るごとにチラチラと見える歯は殆ど抜けていて、異様な不気味さが漂っている。
生きている人間には見えなかった。
『もしかしたら、僕は死んでいるんじゃないか』
そんな考えが浮かんだ。
少し背筋が冷たくなったが、それは布団に潜ったままの右手で太ももを抓るという子供じみた行動で紛らすことができた。
酷く単純で滑稽な確認だが事故の衝撃と老人の言動でまともな思考状態でないのは明白である。
まあ、普段であれば死んでいるから痛みを感じない。なんて道理はない。
そんな道理があるならば地獄があるわけがない。
痛み、即ち苦しみを感じない地獄。
そんなものは存在自体が無駄に等しい。
と、ここら辺までセットで考えが及ぶだろうが、今の彼には地獄がどうのこうのなんて考える余裕はない。
そして残る可能性は幻覚。
頭を強く打って一時的に視覚、聴力、後は認識力に異常が出ている。と、彼はそちらの方向で結論を急いだ。
手に握られたナースコールを押した。
「なにしてんだ...あたしを追い出そうなんて考えてるなら無駄だぞ...」
追い出そうなんて話ではなくただ老人が幻覚かどうか確かめたいだけだ。
いや、追い出せるならそれに越したことはないのだろうが。
暫くすると医師と看護士がやってくる。
「意識が戻ったんですね」
目の前の死神と名乗ったじいさんに目もくれない。
医師と看護士は「自分のお名前言えますか?」「何本に見えます?」等と言いながら俺の体をいろいろと確認する。
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