死神

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彼は医師や看護士の質問に何一つ間違うことなく答えられた。 だが、医師たちが見向きもしなかったんだ。 ここで「あのおじさんは誰ですか」なんて口にしてみれば即刻精密検査やら打ち所がどうの、そんな面倒なのはごめんだった。 ひと段落し、また彼と死神(?)の二人きりになった。 「あたしを追い出すんじゃあないのか...」 「がっかりしたんなら自分で出てってくれよ...」 「そうはいかねえ、お前を探してたんだからなあ」 「探してた?こ、殺しにきたんだろう」 死神が憑く、つまり死期なんだろう。そう彼は思っていた。 病院に死神。 この二つのワードだけで十分『死』が連想できる。 頭の打ち所が悪かったのだろうか。 「いやいや...いーや。違うねぇ...」 けらけらと笑い出す。 「だったらなんで僕は轢かれたんだ!」 「いやぁ、そいつはお前さんの運が悪かったんだろうよ...」 彼が死に掛けたのは死神のせいではないという。 表情一つ一つがこんなにも不気味で一緒に居るだけで床に真っ暗で大きな穴でも空きそうなのだが。 「じゃあなんで僕の前に現れたんだよう」 殺す目的の無い死神。これはもう死神ではないのではないだろうか。 へっへっへ、と笑って死神が答える。 「あたしはお前を探してた...」 すっと死神が僕の胸に指を挿す。 「驚くなよ」 と、言った刹那。 死神がパチンと指を鳴らす。 途端、ガスバーナーに火が灯る瞬間のような音と共に僕の胸から火柱が上がった。 灯る音以外は無音で、激しい炎が燃え上がる。 「う、うわあああああああああああああああああああああああああ?!」 必死に炎を消そうと手やかぶっていた布で叩いたが消える気配は無い。 やっぱり死神は命を奪いに来たんだ! 「まあ落ち着けよう...」 死神がポン、と手を叩くと炎は一瞬で消えた。 今の炎は一体なんだったのだろうか。
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