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それは現在の状況では、自分には、確約は難しかった。
辛うじて提示できた答えは、たった今、否定され、拒絶された…。
ギルドメアは息を吸い込み、言い募った。
「しかし、政王陛下、我らが民を救うお気持ちあらば…」
「言った通りです。わたくしたちの民を危険に曝すわけにはいかない」
アークは視線を落とした。
最悪、東西セルズを見捨てる選択肢もある。
せめてサールーン王国、シャスティマ連邦、ボルファルカルトル国は救えるはず。
ある国家を見捨てるという現実は、アークには耐えきる自信はなかったが。
自分はひとりではない。
気を強く持たなければ。
「その1人の安全のために…」
「それ以上言わぬがよかろう」
アークは遮った。
自国の民はたった1人ですら他国の民に換えたりはしない。
ギルドメアは諦めなかった。
歯を食いしばり、そして言った。
「しかしながら、絶対の安全などというものは存在しません!」
「解っていますよ」
アークは静かな目でギルドメアを見た。
「わたくしが欲しいのは絶対の安全とは違います」
「では何が…」
足りないと言うのか。
アークは目を伏せ、そして顔を上げ、ギルドメアを見た。
「戻って東西セルズに伝えるとよろしいでしょう。わたくしたちは、もはや結界の形を変えることも辞さぬ考えだと」
ギルドメアは息を呑んだ。
結界の形を変える…すなわち、現在ある結界を捨てると。
「政王陛下…!」
「話はこれまで。お帰りを」
「お待ちください…!…ロルトの血族の者は納得の上か…!」
アークは眉根を寄せてギルドメアを見た。
彼は続けた。
「此度の件、ロルトの者が…亡きオムステッド・ロルト・レン・セスティオ卿がご子息、カィン・ロルト・クル・セスティオ殿のご意向なのではありませぬか…!」
アークは、やはりそちらか、と得心がいった。
仲介者であるグレンの話が届いたのだろう。
「止むを得ません。彼もあの者を犠牲にせよとは言わない、決して」
「犠牲ではありません!必ずやお守りします!」
「ギルドメア殿」
アークは落ち着かせるように呼び掛けた。
「東西セルズは我先にとあの者を奪うことを厭わないでしょう。失礼ながらあなた方中央政府にそれを止めるほどの力はない」
アークは視線を伏せた。
「どうぞ、お帰りになり、東西セルズに我が国の意向をお伝えください。それが…」
アークは視線を上げてギルドメアを見た。
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