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遠慮なく入らせてもらうと、聞いた通り、表にあった鳥の声は消え、差し込む朝の光が、奥の中央にある結界石を輝かせ、辺りの柱や床にも降り注ぎ、静かで美しい光景を見せていた。
ネリウスは結界石に近付いて、その堅牢さに感服する。
外に出ると、騎士に礼を言って一旦は地図を見るが、腹が空いたことに気付く。
近くに食堂はないかと聞くと、黒檀塔の近くにフッカの店がありますよ、と言われた。
「中で飲食は出来ませんが、そちらで食べ物と飲み物を買って、港の展望露台で食べるといいですよ」
そうして、地図で黒檀塔を教えてもらい、大通りを南下する。
王城をぐるりと回って港に向かう途中にその店はあり、中で美味しそうなフッカと呼ばれる食べ物を数種と、茶の入った竹の水筒を買って港まで歩いた。
港は、まばらに人が居て、走っていたり、散歩をしていたり、早足で歩き去ったりと、行き過ぎる人もいれば、展望露台で両手を伸ばし、体を伸ばしている者、湖の向こうを眺める者、椅子に座って寛ぐ者たちもいた。
ネリウスはそんな中に混じって、フッカを食べ、茶を飲んだ。
水筒は捨てて構わないとのことだったので、他のごみと一緒に港に設置されていた屑入れに捨てた。
腹が満たされ、さてこれからどうしようかと地図を開くと、シャガラク遊技場とフォムステッツ騎馬場が目についた。
シャガラク遊技場も気になったが、ネリウスの国には馬がいない。
馬より小さな、パコという、丈夫でおとなしい動物が荷物や人を運んでくれるのだ。
地形からしても、馬よりパコの方が適していた。
ただ、早く走ることは出来ないので、国内での移動はひどくゆっくりしたものになる。
ネリウスは、そんなことを思い出し、馬に対する興味が湧いてきた。
さて、ここまでどうすれば行き着けるだろうかと辺りを見回すと、何ヵ所かに分けて人々が集まっているのが目についた。
全員、何かを待っているらしく、時々腕時計を見つめる者が多い。
ネリウスは、近くに行って聞いてみることにした。
胸が躍る。
手近な一団に近寄って聞いてみると、馬車を待っていると言う。
「馬車とはなんだろうか?」
「馬に引かせる車だよ。お前さん、馬車のない国からの旅行者かい」
おおらかでふくよかな女性にそう聞かれ、ネリウスは頷いた。
「そうかい、馬車ってのはあれだよ、見てごらん」
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