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「私も見事に失敗して帰ったよ…だからかね、君に声を掛けたのは」
ふう、と息を吐く。
陽気さが一瞬消え、またすぐ笑顔になる。
「まあ、くよくよしてても始まらない!酒といきたいところだが、あいにくアルシュファイドは禁酒時間があるからね!豆茶で我慢しよう…まあ下手に酔うのもみっともない」
はあ、と気の抜けた返事をして、ふと気にかかる。
「あの、ヴァッサリカ公国の出身なのにアルシュファイドに『帰った』?」
妙な言い方だ。
するとグレンはおおらかに笑って言った。
「ああ、言い方ちょっと変だったね。仕事の依頼主がこちらの人でね、依頼の交渉を終えて一旦その人の元に戻るんだよ…って説明で解るかい?」
「ああ、なんとなく…」
帰る、ではなく戻る、ならまあ解る。
自分も戻らなくては、と気が重くなる。
「おや、君も今から戻るのかい」
「はあ…」
溜め息ともつかない返事をすると、グレンは、なるほど、と大きく頷いた。
「いや、実は私も戻るのに気が重くてね…だからこんなところで寄り道しているわけだ…」
はははと力なく笑う。
だがまたすぐに立ち直り、ピクトリノに帰るのかい、と聞いてきた。
「いや、ヴェヅネッカですよ…」
「ヴェヅネッカ?確か中央政府があるという…」
「ええ、そうですよ…」
帰って仲間になんと言うべきか。
さらに落ち込むギルドメアに、グレンは恐る恐る聞いてみた。
「まさか中央政府の人かい?」
「ええ、そ…」
さすがにそこまで立ち入ったことを答えるのはどうか…、と気付いたが少し遅かった。
「セ…」
グレンが何か言い掛けたとき、女給が来て、お待たせしました、と豆茶をふたつ置いていった。
グレンはそれを飲もうとして熱さに悲鳴をあげた。
「だっ、大丈夫ですか…」
「はっ、はいほーふ」
言えてない。
グレンは最初に出されていた水をがぶ飲みして、ようやく落ち着いた。
「へ、へるず…セルズ中央政府の人がなぜここに…」
いや、まあちょっと、と言葉を濁すと、グレンは何事か考えている様子で、しばらく黙ってから聞いてきた。
「どこの部署です?」
真剣な問いに気圧され、つい言ってしまう。
「結界管理部ですが…」
「彩石判定師殿の件ですか」
「なぜそれを…」
言いながら何かが引っ掛かるのをギルドメアは感じた。
「私が東西セルズにその話を持っていったからですよ…」
ふたり、互いを見つめ合い、暫く沈黙した。
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