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言い訳しながら、カィンには土の宮公、ロアセッラ・バハラスティーユ・クル・セスティオ…ロアの分も渡す。
「だけどね、もし良かったらアークに使用感とか教えてあげてほしいの。サールーンと言えば葉茶だけど、他にもこれだけ特産品があって…」
ミナは眉根を寄せて話す。
その手は強く握り合わせている。
「結び付きの強化には、互いの文化に、より多く触れるといいかなって思ったんだけど、あちらの人たちはまだ、毎日生きるのに必死で…」
ミナは言葉を繋ぐ。
「これは単なるお土産だよ。ただ、話の種になるようなら、それが何かの機会になるかもしれないと思うの」
カィンは言葉をなくす。
そんなことを考える暇があるなら休んでほしいのだ。
その横からファラが言った。
「分かりましたわ、ただ使ってみるだけでいいんですのね…確かに、カザフィスのものとは違って、糸が太く毛羽立って、密集している感じで…厚くて、温かいですわね。カザフィスの布は糸が細くて、網目の細かさが判るほど、薄くなっていましたわ」
サリが心配そうに言った。
「もしかして、サールーンは寒かったのでしょうか?風邪などひかれませんでした?」
「えっ、ううん、向こうではずっと術発動してて、空気が一定だったんだ」
カィンは以前行った気候を思い出して言った。
「サールーンは他の土地より高所にあるから、寒いんだって聞いたよ。布の網目が細かいのは、共通して灰避けだろうね。灰の中でも息が出来るように」
ファラが言った。
「レグノリアも、朝晩は冷えますから、サールーンの布は肩掛けや膝掛けにちょうど良いですわ」
そしてちょっと考え、続けた。
「カザフィスの布は、それより、もうちょっと軽めに、飾りのようにも使えますし…夜会用の肩掛けに良さそうですわ。何よりどちらも手触りが良くて気持ちいいですわね」
カィンが、ああ、と頷いて言う。
「顔に直接当たるからね。肌触りも大事なんだと思う」
ミナは、にっこり笑った。
一同はこれが目的かと目を見張り、そしてアルシュファイド王国に居ながらアークの役に立つ機会を得て、心が、ほんのり温かくなるのだった。
ミナは続けて、ルークには茶器を、と言った。
「既に立派な茶器をお持ちとは思いますが、サールーンの茶器はちょっと縁が薄くてこちらの厚手の器とは違いますよね。そして幅が広くなっていて、これは熱いから冷ましやすくなっているのですって」
ミナは、反応の薄いルークを心配げに覗き込み、続けた。
「ルークはスーと一緒に居ることが多いので、2人分の茶淹れ器にしてみました…」
ルークは緩衝材から取り出した器を両手で包み込み、ゆっくりと笑みを広げた。
「うん…ありがとう」
自分がしたかったこと。
アークの役に立てるかもしれない。
それはとても小さなことだったけれど、確かにそこに、関わっていられることが嬉しかった。
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