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彼女の力はニトの町で見たときにようやく覚った。
あれほどに、はっきりと、結界の違いが見られるとは。
改めて溜め息をつくのを見て、ミスエルは、にんまり笑い、シェイドの腕をつついた。
「ほら、行ってよかったでしょう」
護衛に選ばれてすぐ国外出張となり、辞退しようかと悩んでいたシェイドの背中を押したのは、ミスエルだった。
ひとつ年上なので、何かと世話を焼いてくれるのだが、シェイドは本当は、彼女のために辞退したかったのだ。
元々彩石判定師を守るのは二の次で、勝ち抜き戦が行われると知り、腕試ししたくて参加したのだが、勝ち残った上に審査に合格してしまった。
その後、出張が決まり、ミスエルに会って、ふと気付いたのだ…守りたいのは、よく知りもしない彩石判定師より、目の前のミスエルだと。
ぽそりと、辞退しようかなと呟いたのを聞き、ミスエルはシェイドの額をべちりと叩いた。
せめて1回やってからそんなことは言いなさい、と。
そして、サールーン王国へ出発。
シェイドは叩かれたことを思い出して額をさすりながら言った。
「確かにいい経験になったよ、仲間もできたし…」
ハイデル騎士団は居心地よかった。
だがこうしてミスエルを目の前にすると、やはり思う。
彼女を守りたいと。
「次はセルズなんだ」
「へえ…まだ辞めたいとか思ってるの?」
食べ終えたシェイドは黙ってミスエルの赭玉石の瞳を見つめた。
ミスエルは、なんだかいつもと違う様子に戸惑う。
「辞めたくはないよ」
けれど、彼女をひとりにもしておきたくない。
シェイドはミスエルから視線を外して言った。
「遠出じゃない仕事もあるんだ。そっちが出来ないか聞いてみる」
強い決意を感じる声音だった。
「なっ、なんで?」
「レグノリアを離れたくないから」
「なんで…」
呟くミスエルの瞳をまた見つめ、シェイドは言った。
「君と離れたくないからだ」
それから、かたりと音を立てて椅子から立ち上がり、シェイドは部屋を出た。
取り残されたミスエルが、その言葉の意味を考えるのは、もう少し後のことだった。
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