その店

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       ―Ⅱ―    その店は黒檀塔に近く、いつもよい香りが漂っていて、イルマは、いつかミナを連れて来たいなと思っていた。 そこにアニースと来たところ、店の裏手に回るシェイドを見掛け、何気なくその路地を見るとシェイドが赤っぽい髪の女と話しているところだった。 「(すみ)に置けないな」 アニースが、そう言って、くすくす笑った。 「意外です」 「そうだな、だがまあ姉か妹かもしれないし」 この大陸の人々の髪や瞳の色は、兄弟姉妹でも違うことがあるのだ。 それはさておき、イルマとアニースは今朝、鍛練場で会い、朝食を一緒にと出てきた。 いつも同じ食堂では、あじきないからと、アニースの馴染みの店に行ったら休みで、イルマの知っていた、こちらのフッカの店に来たのだ。 2人は、そこで好みのフッカと飲み物を選ぶと、店を出て港に向かった。 そちらの展望露台に出ると、角机と椅子がいくつかあり、食事を摂るのにちょうどよいのだ。 穏やかなレテ湖の向こう、海岸線には今頃、南海岸警備隊の総力が集結し、海賊討伐に動いている。 サールーン王国から戻る途中、海賊に襲われたものの、デュッカの迅速かつ容赦ない対処のお陰で、彼ら騎士団は活躍することもなく、エラ島にて賊を引き渡すだけで済んだ。 あの賊どもは船を失い、海岸沿いにある施設で、異能を奪われ、厳しい監視下のもと、これから無償で働かされるのだ。 隠れ家としている島もすべて明らかにされ、南海岸警備隊は、メノウ王国と共にその残党討伐の計画を立て、これから実行するはずだ。 叶うものなら自分も行って、このもやもやした感情をぶつけてきたいところだ。 あれだけの大仕事を終えて疲れきっているミナを襲おうなんて許しがたい。 「おいおい…顔つきが穏やかじゃないぞ」 「すみません…」 イルマは頬に手をあて、息を吐いた。 どうもミナのこととなると我を忘れて困る。 「何考えてたんだ?」 「賊どものことです。私も残党狩りに行きたかった…」 「ああ、風の宮公のお陰で楽できたはいいが暴れ足りないよな…不謹慎か」 「私は奴らに罰を与えてやりたいです…よりにもよってミナに手を掛けようだなんて」 アニースは、そんなイルマの様子を眺めて、言った。 「イルマはハイデル騎士団がなくなったらどうする気だ?」 急に話が変わって、イルマは目を(しばたた)いた。 結成してひと月で、もうなくなる話なんて…。
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