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ネリウスは窓側に座ったので、そこから町を眺めることにした。
馬車は、昨日ふらふら歩いた大通りを横切って東へ向かい、
外の景色は背の高い建物から、民家らしい背の低い建物へと変わり、格子道路はやがて終わって、川の流れが直接見えた。
親切な同乗者が、こちらはヤクシ川ですよ、と教えてくれた。
「他にも川があるのか」
聞くと、ヤクシ川の南東に位置するショウカン川、国の中央を流れるチュウリ川、その西側にシサ川、そしてたくさんの支流が集まる短いボナ川があるとのこと。
「これから向かうフォムステッツ騎馬場は、東連峰の麓に広がっていて、ショウカン川とヤクシ川の間にあるんですよ」
「東連峰…」
地図で見て知っている。
この大陸では、そびえ立つふたつの連峰が中央を南北に貫き、アルシュファイド王国の西と東で他の国を隔てている。
「間近で見られるのか?」
街中から遠くに見えてはいたが、身近にあるものがあまりに珍しく、楽しくて、意識して見ていなかった。
「そうですね…近くまで行って見ることはできませんが…その偉容を体感するのに不足はないでしょう。あまり近すぎると目の前の岩壁しか視界に入りませんからね」
そう言って男はちょっと笑った。
「どのみち私もフォムステッツ騎馬場に行くので、案内しましょう。私の名はユリウス・カーマイン。あなたは?」
ネリウスは窓の外に夢中だったが、名乗りに気付いて身を起こし、目の前に座る男の目を見て名乗った。
「私はネリウス・クー・ルーンだ。親切にありがとう、よろしく頼む」
男は僅かに目を細めて笑い、どちらからの旅行ですかと聞いた。
「サールーンだ。弟のお供でね。私は暇だからこの辺りを歩いているところだ」
「アルシュファイドはどうです?見るべきものはありましたか?」
「ああ、見るものすべてが目新しくてな、楽しい」
にこりと笑ってネリウスは、また窓の外を眺めた。
ユリウスはそれを見ながら胸元の隠しにある紙片と炭筆を取り出し、揺れる車内で器用に何事か書いた。
やがてフォムステッツ騎馬場に到着し、ユリウスは紙片を風に飛ばした。
「えーっと、ユリウス…そうか、君は私と一文字違いなのだな」
「ユゥリとお呼びください。知人は皆そう呼びます」
「そうか、ユゥリ。これからどちらへ行けばいい?」
「少し待ってください」
ユゥリはそう言うと、入場門脇の箱に紙幣を入れた。
「それはなんだ?」
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