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「そうですね…入場料というか、寄付金入れです。施設の維持管理に使われますが、義務ではないので入れなくて構いませんよ。旅行者は知らなくて当たり前ですから」
「いや、だが、利用するからには私も入れよう。というか、何事も珍しくてな…やっておきたいんだ。いくらだ?」
ユゥリはゆったりと微笑んで、気持ちでいいんですよと言った。
「500ディナリ硬貨を入れる者が多いです」
「君は紙幣だったな?」
ユゥリは少し困ったような顔をした。
「私は元騎士だったのですよ。今でも不定期に利用させてもらうので、2000ディナリ入れるようにしているのですが、普通は多くても1000ディナリが相場です。あまり気に掛けないでください」
ネリウスは少し悩んだようだったが、最初に言われた通り500ディナリ入れることで満足した。
「さて、それでどちらへ行こうか?」
「左手は立ち入り制限があるんです。右手から回りましょう」
ユゥリはそう言うと、ネリウスを促して歩き出した。
騎馬場は緩やかな角を持つ四角い施設のようで、外周を辿ると中に森があるのが見て取れた。
「すごいな、森がある」
「ええ、もとは雑木林だったんですが、整備して育てたんです。あの辺りは馬術場なんですよ。馬には乗れますか?」
ネリウスは期待を込めて聞いた。
「ここで乗れるのか?実は馬を見るのも初めてなんだ。パコとはだいぶ違うね」
ユゥリは首を傾けた。
「パコですか。私はその動物を知りません…」
ネリウスは教えられることが嬉しくて笑顔を広げた。
「パコは馬に似ているが、小さくてな、崖を登るのが得意な動物なんだ。そういえば体つきが少し違うかな…顔は似ているよ」
ユゥリはなるほどと頷いた。
「サールーンは高地ですから、動物もそれに合った体つきなのでしょうね。馬に崖登りは無理です」
「平地に優れた動物なのだな」
ふたりは、話しながら騎馬場の裏手に回り、道路を渡った。
その向こうには広大な平原があり、さらに奥には森が、そしてその背後には、東連峰がそびえ立っていた。
その偉容に、ネリウスは、おお、と感嘆の声をあげ、暫し見入った。
サールーン王国の崖とはまた違う光景だ。
何より、高さが違う。
雲を突き抜ける頂は、サールーン王国の港から町を見上げるのとは段違いの高さだ。
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