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東セルズから
ミナとデュッカが禁書庫で火山結界の資料を探しているとき。
不意に風が吹き込んで、一通の手紙が舞い込んだ。
デュッカはそれを読み、わずかに眉根を寄せて、ミナを見た。
「何か…?」
そう言うミナの頬を撫で、暫し。
やがて溜め息を吐いたデュッカは、少し空ける、と言った。
「悪いことでも?」
「いや、アークには朗報だろう。行ってくる」
振り切るように禁書庫を出た。
差出人であるグレン・セッツィーロ・アモナンは、今は遠い異国の空の下にある。
そこで彼は、降り注ぐ降灰に辟易しながら、空を見上げていた。
カザフィス王国の結界が改まってから1週間あまり。
グレンは昨日まで、東セルズ王都ヘンリーに居て、アルシュファイド王国の彩石判定師がどれほど有益な存在かを、説いていた。
もちろん、それこそがグレンが東セルズに入った目的ではあったのだが…今回は、東セルズ側から要請があったのだ。
グレンは、北の空をじっと見た。
東セルズの町、ここ、シャイデンからでも、その存在が視認できる。
カザフィス王国の改められた一大結界が。
このため、どういうことかと東セルズの重臣会議で議題に上がったとき、グレンが接触していた人物が、控えめに手を上げたのだ。
アルシュファイド王国の彩石判定師という役職の者が、カザフィス王国の火山区結界の視察に赴いていたのだと。
皆、顔を見合わせた。
それは確かに変わった動きには違いない。
アルシュファイド王国の者が、カザフィス王国を視察した。
カザフィス王国側がそれを認めた。
それ以前の問題として。
彩石判定師とは何者なのか。
そこで彼は、仲立ちできる人物の名を挙げた。
ヴァッサリカ公国血族調査室のグレン・セッツィーロ・アモナン。
なぜ、ヴァッサリカ公国の者が。
疑問を呈したのがその場に集まったうちの半分ほど。
あとの半分は知っていた。
11年前、メノウ王国が国内にいる異国の者たちを迫害、出国制限をかけた際に、国外脱出を手伝ったオムステッド・ロルト・レン・セスティオが発動した権限。
ヴァッサリカ公国の血族に助力を働きかけること。
もちろん東セルズはこれによる血族からの申し出に協力した。
メノウ王国に居た自国民は少なかったが、それでも確かにそこに居て、苦境に立たされていたのだから。
そして今回、アルシュファイド王国との仲立ち…その橋渡しをするのならば。
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