東セルズから

1/2
前へ
/158ページ
次へ

東セルズから

ミナとデュッカが禁書庫で火山結界の資料を探しているとき。 不意に風が吹き込んで、一通の手紙が舞い込んだ。 デュッカはそれを読み、わずかに眉根を寄せて、ミナを見た。 「何か…?」 そう言うミナの頬を撫で、暫し。 やがて溜め息を()いたデュッカは、少し空ける、と言った。 「悪いことでも?」 「いや、アークには朗報だろう。行ってくる」 振り切るように禁書庫を出た。 差出人であるグレン・セッツィーロ・アモナンは、今は遠い異国の空の(した)にある。 そこで彼は、降り注ぐ降灰に辟易(へきえき)しながら、空を見上げていた。 カザフィス王国の結界が改まってから1週間あまり。 グレンは昨日まで、東セルズ王都ヘンリーに居て、アルシュファイド王国の彩石判定師がどれほど有益な存在かを、説いていた。 もちろん、それこそがグレンが東セルズに入った目的ではあったのだが…今回は、東セルズ側から要請があったのだ。 グレンは、北の空をじっと見た。 東セルズの町、ここ、シャイデンからでも、その存在が視認できる。 カザフィス王国の改められた一大結界が。 このため、どういうことかと東セルズの重臣会議で議題に上がったとき、グレンが接触していた人物が、控えめに手を上げたのだ。 アルシュファイド王国の彩石判定師という役職の者が、カザフィス王国の火山区結界の視察に赴いていたのだと。 皆、顔を見合わせた。 それは確かに変わった動きには違いない。 アルシュファイド王国の者が、カザフィス王国を視察した。 カザフィス王国側がそれを認めた。 それ以前の問題として。 彩石判定師とは何者なのか。 そこで彼は、仲立ちできる人物の名を挙げた。 ヴァッサリカ公国血族調査室のグレン・セッツィーロ・アモナン。 なぜ、ヴァッサリカ公国の者が。 疑問を呈したのがその場に集まったうちの半分ほど。 あとの半分は知っていた。 11年前、メノウ王国が国内にいる異国の者たちを迫害、出国制限をかけた際に、国外脱出を手伝ったオムステッド・ロルト・レン・セスティオが発動した権限。 ヴァッサリカ公国の血族に助力を働きかけること。 もちろん東セルズはこれによる血族からの申し出に協力した。 メノウ王国に居た自国民は少なかったが、それでも確かにそこに居て、苦境に立たされていたのだから。 そして今回、アルシュファイド王国との仲立ち…その橋渡しをするのならば。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加