東セルズから

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カィン・ロルト・クル・セスティオの名が真っ先に浮かぶ。 セスティオ卿の息子。 彼が。 望むのだとしたら。 亡きセスティオ卿への恩義に報いるためにも、動かねばなるまい。 ただその彩石判定師を受け入れることにどのような意味があるのかは判らない。 視察だと言うのなら、その後の動きこそが重要なのかもしれないが。 それにしてはどうもおかしい。 国境付近に突如出現した巨大結界。 彩石判定師という得体の知れない者が携わったのか。 たかが視察でここまでのことが出来るものなのか。 詳しい話を聞くため、即座にグレンに連絡が取られた。 ちょうど、彼は東セルズ入りしたところで、一も二もなく駆けつけたのだ。 そうして熱弁を振るった結果。 東セルズから正式な依頼が行く前にと。 グレンはデュッカに宛て、手紙を送った。 北風が吹く度、降灰の被害に見舞われる国、東セルズ。 その国の決断は。 彩石判定師を招くことだった。 正式な依頼となれば、ミナの精神的負担は大きい。 不信と期待が否応なく彼女を襲うだろう。 グレンは彼女に直接接した身として、それら重圧に彼女が耐えられるかを心配した。 だが、やるしかない。 …本当に視察だけになる… その言葉に不安が(よぎ)る。 過度な期待にならねばよいがと、努力はしたが完璧とは言えまい。 唇を引き結んで、グレンは西隣国である西セルズを向いた。 同じ名に東西を付けただけの全く違う国。 どちらも主権国であると主張し合い、今は二王制となって分離し、落ち着いている。 これは、東西セルズがかつて一時期、ひとつの国家、セルズ王国として認知される以前に、東セルズが独立した国家、ハスガティア王国であったことに起因する。 細かく言えば、ハスガティア王国の版図には、旧サキト王国が含まれているが、ボルファルカルトル国に攻め入られたときに消滅した。 とにかく、旧ハスガティア王国に住む人々、殊更国を動かす者たちは、西セルズと主権を取り合うまでに力を取り戻し、数十年前、平和的解決策として、東西に分離したのだ。 このため、東西セルズの間には国境が存在し、厳しく出入りを制限されている。 このふたつの国の扱いは難しい。 後にどちらが先に彩石判定師の恩恵を受けたかで争わねばいいがと思いながら、グレンは西セルズに向け歩き出した。 今回は彩石判定師の働きのお陰で、事はすんなり運んだが。 西セルズにこの現状は伝わっていまい。 グレンが気を引き締めた頃。 アルシュファイド王国では、新たな動きが現れていた。
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