サールーン王国の使者

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グレンの働きかけは水面下のものだ。 いきなりこうして使者が来る前に、問い合わせがあって然るべきだ。 「結界を修復する者…そのように心得ております」 サイネイストは緊張しながらも、真っ直ぐにアークを見て、どんなごまかしも見逃すまいとしているようだった。 その様子を見ながら、アークは眉根を寄せて言った。 「我らが彩石判定師はそのような役目の者ではありません。ただ、彩石の異常を見分けているだけです」 すると、サイネイストはしばらくアークの顔を探るように見ていたが、偽りのないことを認め、当惑の表情を浮かべた。 「では、何者がカザフィスの結界を修復したのです?」 アークは慎重に話した。 「あれは、彩石判定師が彩石の異常を感知し、正しく術者を導いた結果です」 サイネイストは言われた意味が解らないようだった。 アークはゆっくりと話した。 「我らが彩石判定師は、彩石の異常を見付けて、それをカザフィス国の術者に教え、カザフィス国の術者は、あの者の導きに従い、結界を修復したのです」 言葉を切って、アークは付け加えた。 「つまり、あの者だけの力では、結界は修復されないのです」 サイネイストはゆっくりと言われた言葉を呑み込んだ。 「…ですが同時に、その女性がいなければ、修復は不可能…そのように解釈してよろしいのでしょうか?」 「…いえ。カザフィス国の結界に関しては、あの者がいなければ不可能だったでしょうが、他の結界において、あの者の能力がどれ程の効果を生むかは判りません」 アークは一旦言葉を切って、サイネイストを強い瞳で見つめた。 「あの者に出来るのは、彩石の判定のみです」 サイネイストは迷っているようだったが、やがて覚悟を決めたかのように、真っ直ぐアークを見た。 「その女性をお借りしたいのです。もちろん礼の品々の用意はあります」 アークは、すっと目を細めた。 「あの者は品物とは違います」 サイネイストは突然の怒気に近い気配に、たじろいだ。 アークは静かな目をサイネイストに向けて、言った。 「…あの者の働きに対する報酬は、その働きを見た後に改めて聞きましょう」 アークは両手を執務机の上で組んだ。 「まだ聞いていませんでしたね。此度(こたび)の訪問は、どなたのお考えでしょうか?」 サイネイストは一旦唇を結び、それから言った。 「無論、我が父の意向です」 「それで?」 アークは先を促す。
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