第一章 招待状

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 もっとも、ここは秋葉原だ。人がどんな格好していようと気にならない。メイド服の少女がいようと、王子様の格好している少年がいようと、気にならない。ただ、なんとなく気になった。 「あ」  声をあげそうになった。  少年がすとん、という感じにホームから線路に降りた。まるで落ちた物を取りに行くかのような自然な感じ。軽やかに、音もせず降り立った。風景にとけ込んでいた。  だから、最初は誰も気づかなかった。ホームにこれだけ人がいるのに。  少年は線路の真ん中に、ホームに入ってくる電車を待つように立っていた。  そのころになると、さすがにざわめきが出てきた。 「あぶねえぞ」 「電車くるぞ」 「駅員呼べ、駅員」  徐々に喧噪が広がっていった。サラリーマン風の男性が、少年に向かって手を伸ばし、「早く上がれ」と怒鳴っている。誰かが駅員を呼びに走っていくのが見えた。
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