第一章 招待状

22/67
前へ
/382ページ
次へ
 白い服を着た少年は、まったく声が耳に入らないように、線路の上に立っている。まるで駅のホームで電車を待つ場所を、単に間違えているかのようだった。早く電車来ないかな、という風に。  非常用緊急停止ボタンが押され、辺りが騒然としてくる。駅のホームの異常さは伝播し、ざわめきが大きくなる。 「なんだなんだ?」 「自殺? マジ?」 「駅員まだかよ」  スマホで動画を撮る人もいる。  俊輔はただ、少年を見ていた。ホームの上から。喧噪の中で、何もできずに状況を見ていた。どうしていいのか分からなかった。みんなホームの端から、少年に呼びかけていた。 「やめなさい」 「早く上がれ」 「電車が来るぞ」
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1683人が本棚に入れています
本棚に追加