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「さて。あまり君と2人でいると、幼馴染の機嫌が悪くなりそうだから、僕は先にリビングに行ってるよ」
フロリアは照れて口ごもってしまった私を見て笑うと、諦めたように肩をすくめて離れていった。
「あ、フロリア。だったら、棚の中にある菓子鉢を持っていって」
「はいはい」
……こんな調子で、私、本当にいつかフロリアのお願いを叶えてあげることができるのかな?
私は、フロリアの唇が触れていた自分の頬にふれ、小さく溜息をついた。
だけど……。
「あっ!」
大変!? センチメンタルな気分になってる場合じゃなかったよ。
気付けば、お茶の葉をむらす時間を計っていた砂時計はとっくに落ちきってる。
濃くなりすぎちゃったかも……。
「よかった。まだ大丈夫みたい」
いつもよりちょっと濃い目だけど、ミルクをたっぷり入れれば、きっと問題なしね。
私はそう判断して、2人の待つリビングへと向かった。
「気を遣わせて悪かったね」
「気にしないで。それより、渡したいものって何?」
「君にというよりは、フロリアになんだけどね」
「僕に? 恋敵の耳に注ぐための毒でも持ってきたんじゃないだろうね」
「おあいにくさま。愛しい人を失った悲しみで花とともに入水する乙女は見たくないんでね」
えっと? 2人ともなんの話をしているの?
「僕に渡すものがあるなら、さっさと渡してくれないか。彼女を蚊帳の外にしておくのはごめんだからね」
「確かに、君と実のある会話ができるとは思えないものな。これを君に渡そうと思って」
そう言って智哉君が取り出したのは、不思議な形をした砂時計だった。
濃い紫の砂を閉じ込めたガラスを縁取る木枠に、絡み合う蔦と蛇が刻まれている。
「砂時計? どういう意味だい?」
「それに、蛇の模様の砂時計なんて、なんだか気持ち悪くない?」
「そうか。君は知らないのか」
「えっ?」
「この砂時計は、透さんからもらったものだ。幼い頃、君が僕の家に泊まりに来るって時にね」
「なんで?」
確かに、小さい頃、お互いの家でしょっちゅうお泊りをしてたけど……。
「安眠誘う砂時計らしいんだ。だから、慣れない場所で、もし君が寝付けなかったり、悪夢を見るようなら、これを使って欲しいって」
「どうして、それを僕に?」
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