第1章

6/40
前へ
/40ページ
次へ
 しょんぼりしたフロリアがちょっとだけかわいく見えて、私は金魚を受け取った。  「ふふ……やっぱり、同じだ」  「え? 何が?」  「君とハルコ」  「私と……おばあちゃんが?」  「そう。昔ね、同じ理由で怒られた。すごい剣幕でね」  「……」  「あんなに怒ったハルコははじめてだったよ。驚いたなあ」  「へえ……」  「なんだか彼女が戻ってきたみたいで、……少し、嬉しかったのも確かだよ」  「……私は、おばあちゃんの代わり?」  「そんなことないさ。誰でも、誰かの代わりなんてならない。君は特にね」  「もう、また上手いこと言って」  「本心を言っただけなのに、つれないね」  綺麗な顔が極上の笑みを浮かべたその矢先……。  ぐう~  「今のおなかの音、フロリア?」  「や、やあ、晩ご飯がまだだったからね、は、ははは」  「ふふ。フロリアの分はロイが食べちゃったから、これから何か作るわ」  「優しいね、君は」  「ホットケーキなんてどう? メイプルシロップをたっぷりかけてね」  「……そんな意地悪な君も素敵だよ」  「ふふ。冗談よ。甘くないパンケーキを焼いてあげる」  「やっぱり、君は慈愛あるれる女の子だよ」  「食べ盛りの子供3人、育ててますから。それに今日から一人、増えたけどね」  「……え?」  「この子にもごはんあげなくちゃ、でしょ?」  そう言って、私は金魚の入ったビニール袋を持ち上げて見せた。  「変ね……」  この間、フロリアが買ってくれた金魚は、鉢に入れてリビングに置いていたんだけど。  鉢が、からっぽ。……まさか。  「どうした?」  「あ、ユーゴ。ねえ、ここにいた金魚、知らない?」  まさか食べちゃうなんて………ううん、そんなこと。  それにロイもユーゴもあの金魚は気に入っていたはずだし。  「広いところに、放してあげた」  え? じゃあ海か川に流しちゃったの!?  「だだだめよ! あれは外の世界じゃ生きられないのよ!」  「家の中だから、安心して」  「え、じゃあどこに?」  「フンフンフ~ン。お、どうした? 2人とも」  「ユーゴが金魚をどこかにやっちゃったのよ」  「ふ~ん、ま、風呂を沸かしたからそういう話は風呂上りにな!」  「え……」  いつも無表情なユーゴの顔色が……もしかして。  「金魚、お風呂に……」  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加