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泥だらけの私の手をつかんで、フロリアは私の顔を見据えた。
「ハルコといい君といい……まったく」
月明りの中、フロリアが泣きそうな顔でため息をついた。
「僕のために泣いてくれるなんて、君たちはほんとうにおバカさんだね」
「だって……」
「ほら、涙を拭いて」
「フロリアは、誰かを本気で好きになったことはないの?」
すると、フロリアはにっこり笑って。
「あるよ」
「じゃあ、あんであんなこと……」
「今は目の前の君に、本気で恋してる」
「え?」
「泥だらけになって、僕のために泣いてくれる君に、ね」
もう、フロリアったら。……でも。
あの、泣きそうな表情は、フロリアからは消えていた。
「はいはい、わかったわよ」
いつものフロリアだわ。いつもの、軽くて女の子好きのフロリア。
私に平然と甘い言葉を囁くフロリア。
もう……懲りないんだから。
「本当、なんだけどね」
「え?」
「さあ、一緒にあの魚をここに埋めよう。手伝うよ」
「え、ええ……」
それから、私たちは金魚を埋めた。
ちいさな花を目立たないように供えて、水のみ場で手と顔を洗った。
フロリアが最後に言った言葉が、爪の間に入った泥みたいに、なかなか落ちてくれない。
『本当、なんだけどね』……って。フロリアはどんなつもりで言ったのかな。
また、いつもの甘いだけの言葉。
フロリアに、問い詰めることはできなくて。
星空の下、……2人で、無言で夜空を歩いて帰った。
窓の向こうに秋晴れっていう感じの綺麗な青空が広がってる。
一面に水色に真っ白な雲が散っているのって、なんだかとってもさわやかな感じなのね。
なんて思うけど……。
「はぁぁぁ~~~~~」
口から出てくるのは盛大な溜息ばかり。
だって、私見ちゃったんだもの。フロリアが頭のよさそな女の人と歩いてるところ。
それは、学校帰りのことだった……。
「ふふふ。まさか君の方から声をかけてくれるなんてね。覚えてくれたなんて光栄だよ」
「忘れるわけないじゃない。あなたみたいなミステリアスな男」
「ミステリアス、か。僕がミステリアスなら、君はアマテラスってところ?」
「アマテラスって、あなた、ずいぶん古風な褒め言葉を使うのね」
「はぁぁぁ~~~~~」
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