第1章

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 泥だらけの私の手をつかんで、フロリアは私の顔を見据えた。  「ハルコといい君といい……まったく」  月明りの中、フロリアが泣きそうな顔でため息をついた。  「僕のために泣いてくれるなんて、君たちはほんとうにおバカさんだね」  「だって……」  「ほら、涙を拭いて」  「フロリアは、誰かを本気で好きになったことはないの?」  すると、フロリアはにっこり笑って。  「あるよ」  「じゃあ、あんであんなこと……」  「今は目の前の君に、本気で恋してる」  「え?」  「泥だらけになって、僕のために泣いてくれる君に、ね」  もう、フロリアったら。……でも。  あの、泣きそうな表情は、フロリアからは消えていた。  「はいはい、わかったわよ」  いつものフロリアだわ。いつもの、軽くて女の子好きのフロリア。  私に平然と甘い言葉を囁くフロリア。  もう……懲りないんだから。  「本当、なんだけどね」  「え?」  「さあ、一緒にあの魚をここに埋めよう。手伝うよ」  「え、ええ……」  それから、私たちは金魚を埋めた。  ちいさな花を目立たないように供えて、水のみ場で手と顔を洗った。  フロリアが最後に言った言葉が、爪の間に入った泥みたいに、なかなか落ちてくれない。  『本当、なんだけどね』……って。フロリアはどんなつもりで言ったのかな。  また、いつもの甘いだけの言葉。  フロリアに、問い詰めることはできなくて。  星空の下、……2人で、無言で夜空を歩いて帰った。  窓の向こうに秋晴れっていう感じの綺麗な青空が広がってる。  一面に水色に真っ白な雲が散っているのって、なんだかとってもさわやかな感じなのね。  なんて思うけど……。  「はぁぁぁ~~~~~」  口から出てくるのは盛大な溜息ばかり。  だって、私見ちゃったんだもの。フロリアが頭のよさそな女の人と歩いてるところ。  それは、学校帰りのことだった……。  「ふふふ。まさか君の方から声をかけてくれるなんてね。覚えてくれたなんて光栄だよ」  「忘れるわけないじゃない。あなたみたいなミステリアスな男」  「ミステリアス、か。僕がミステリアスなら、君はアマテラスってところ?」  「アマテラスって、あなた、ずいぶん古風な褒め言葉を使うのね」  「はぁぁぁ~~~~~」
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