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慌てて顔を上げて応じた淳だったが、そこで目の前のローテーブルに湯飲みを一つ置かれて、戸惑った顔になった。反射的に問いかける視線を向けると、先程良子達に出した茶碗を二つ回収しながら、各務が笑顔で説明する。
「これはご両親に持って来たわけでは無くて、先生の分です。これで幾らか気持ちを落ち着かせてから、統括部長に今日の首尾を報告された方が良いかと」
「ありがとうございます。頂きます」
各務の気遣いを感じ取った淳は、素直に頭を下げて湯飲みを取り上げた。そして一気に飲めるように温めにしてあるお茶を飲み干して、自分が思っていた以上に怒り、緊張していた事に気付かされる。と同時に平常心を取り戻した淳は、心からの感謝の言葉を口にした。
「大変美味しかったです。ありがとうございます」
「どういたしまして。色々頑張って下さいね」
そう言って小さく笑った各務を見て、淳は(美子さん並みに侮れない女性だな)などと考える余裕すら取り戻し、上司に裁判所での首尾を報告するべく、応接室を出て歩き始めた。
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