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「うん! こんに~ちゃ、って」
「そうかそうか。それで? どんなお客だった?」
「あのね? おきゃくで、おちゃで、さよーなら、だよ?」
にこにこと美樹が告げた内容を聞いて、昌典は微妙に顔を歪めて再度尋ねた。
「美樹。どういうお客だったのかな?」
「おきゃくで、おちゃで、さよーなら、なの!」
「……分かった。もう良い」
美野の完璧な指導で美樹からの情報収集を断たれた昌典は、諦めて屈めていた身体を起こした。そして会話に区切りがついたのを見た美幸が、声をかける。
「じゃあ、美樹ちゃん。おじいちゃんにご挨拶したし、お風呂に入ろうか」
「うん。おじーちゃん、おやすみです!」
「ああ、おやすみ」
そしてドアから出て行った二人の後を追うように、昌典も食堂に向かってから、美恵は安堵して胸を撫で下ろした。
「秀明……。帰っていたか。何やら美子が、体調が良くないとか言っているようだが」
食堂に入ると秀明が一人で夕食を食べていた為、昌典は自分の席に着きながら声をかけた。それに対し、箸の動きを止めた秀明が、笑顔で言葉を返す。
「ええ、食べ始める前に、様子を見て来ました。大した事は無さそうですので、一晩ぐっすり休めば明日は大丈夫でしょう」
「それなら良いが……」
そして昌典の分の料理を揃えた美野が食堂から出て行くのと同時に、昌典は鋭い視線を義理の息子に向けた。
「美子の調子が悪いのは、日中来たらしい客のせいだな?」
しかし秀明はその視線に全く動じる事無く、食べる合間に答える。
「何の事を仰っておられるのか。確かに客人は来たらしいですが」
美恵達と意思統一をするまでも無く、美子から電話で粗方の事情を聞いていた秀明は、詳細を話した場合に激怒する事確実な義父に対して、一言たりとも真実を漏らす気は無かった。しかし昌典は益々目つきを険しくして、問い質してくる。
「誰が来て、何があった?」
「お義父さん、申し訳ありません。俺はその時、就業時間の真っ最中だったもので。家の中の事まで、知る由もありません」
しかし一見真っ当な主張に思えるそれを、昌典は鼻で笑い飛ばした。
「まさか本気で言っているわけではないだろうな? 我が家に係わる事で、お前が把握していない事など、あるわけないだろうが」
「それは買い被り過ぎです、お義父さん」
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