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互いに薄ら笑いを浮かべながら、睨み合う事暫し。昌典は溜め息を吐いてから話題を変えた。
「まあ、良い。一つ、お前の意見を聞きたい事がある」
「何でしょう?」
「実は今日の日中、社長室で小早川君と会ってな」
「……え?」
話題が変わった事で安堵したのも束の間、予想外の事を言われた秀明は、本気で一瞬固まった。そんな彼の様子を探る様に眺めつつ、昌典が意見を求めてくる。
「彼も悪意とか悪気は無かったわけだから、この際美子を説得して、きちんと二人の話し合いの場を設けようかと思うのだが」
しかし昨日までならともかく、今の美子が素直に昌典の説得に耳を傾けるとは思えなかった秀明は、若干動揺しながら控え目に反論してみた。
「全面的に賛成ですが……、実行に移すまで少し時間を空けた方が良いかと」
「ほぅ? お前がそう言うとは思わなかったな」
少々わざとらしく応じてから、昌典はサクッと切り込んできた。
「今日ここに出向いたのは、彼に関係する人間か?」
「さぁ……、それは存じませんが」
表面的には淡々と、しかし内心では義父の洞察力の鋭さに感心しながら秀明が応じると、昌典はあっさりと話を終わらせた。
「分かった。今の話は当面保留だ。美子にも言わないでおく。それで構わないな?」
「はい」
それから昌典は食べる事に集中し、食べ終えた食器を手に隣接する台所に向かった秀明は、あまりの間の悪さに頭痛を覚えた。
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