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食堂を出て部屋に戻ろうとした秀明の背後から、呼び止める声がかけられた。
「秀明義兄さん!」
丁度本人から直接話を聞きたかった事もあり、秀明は笑顔で振り返って、廊下を小走りにやって来た義妹と向き合う。
「ああ、美実ちゃん。今日は大変だったね。体調は大丈夫かな?」
その問いかけに、美実は神妙な顔付きで謝罪の言葉を口にしてから頭を下げた。
「はい、私は平気ですけど、美子姉さんに怪我をさせてしまって……。今日は本当にすみませんでした」
「気にしなくて良いよ。美子の怪我は、美実ちゃんのせいじゃ無いだろうし」
「でも!」
頭を上げて尚も言いかけた美実の台詞を、片手を挙げて止めさせた秀明は、真顔で要求を繰り出す。
「それより今後の事もあるから、できれば日中何があったのか、できるだけ詳しく教えて欲しいんだが。一応簡単に美子から聞いているから、できるならお義父さんには内緒で。お義父さんまで怒らせたくはない」
その申し出に、美実は硬い表情で頷いた。
「お父さんに関しては同感です。それなら美子姉さんが会話を録音していたデータがありますから、一部始終を聞きますか?」
「どうしてそんな物が?」
「美子姉さんが、準備していたんです。後から言った言わないの水掛け論にならないように、録る事にしたんじゃないかと。でも本人がすっかり忘れてしまったみたいなので、私が回収しておきました」
事情を聞いた秀明は、若干疲れた様に溜め息を吐く。
「……美子らしくないな」
「はい。いつもの姉さんなら、忘れたりしませんから」
沈んだ調子でそう言ってから、美実は気を取り直した様に冷静に提案してきた。
「それじゃあ、お義兄さん。先に居間に行ってて貰えますか? 一度部屋に行って、レコーダーとイヤホンを持って行きます。お父さんは食事が済んだら、すぐに書斎に行くでしょうし」
「分かった。頼むよ」
そんな風に話が纏まり、二人は一度別れて動き出した。そして秀明が他に誰もいなくなっていた居間で新聞を読み始めると、すぐに美実が現れる。
「お待たせしました。これです」
「ああ。ちょっと借りるよ?」
広げたばかりの新聞を綺麗に畳み、その間に向かい側のソファーに座った美実から頼んだ物を受け取った秀明は、早速イヤホンを耳に付けてデータの再生を始めた。
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