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「えっと……、何事?」
「いや、これはちょっと」
「美幸。今取り込み中だから、出てってくれる?」
さすがに誤解されたら拙いと秀明は弁解しかけたが、美実は素っ気無く言い捨てたのみだった。しかし何とか気を取り直した美幸が、美実に対して盛大に言い返す。
「美実姉さん! 社内、じゃなくて、家庭内不倫なんて絶対駄目だから!」
「はぁ?」
「美幸ちゃん。それって誤解」
「本当に洒落にならないから! 美子姉さんにバレたら、血の雨が降るって!!」
一人でわたわたと狼狽しまくっている美幸を見て、美実が呆れ気味に言い聞かせた。
「美幸、あまり馬鹿な事を言わないで。これのどこが不倫だって言うわけ?」
その堂々とした反論っぷりに、美幸は思わず二人を指差しながら指摘する。
「現に美実姉さんが、秀明義兄さんを押し倒してるじゃない!?」
「これは『押し倒している』んじゃなくて、『拝み倒している』のよ。あんた今年受験でしょ? 内部進学とはいえ、日本語は正しく使いなさいよね」
呆れ気味の反論に(絶対、認識が間違ってる)と秀明は内心で突っ込んだが、美幸も同様の心情だったらしく、美実に背後から組み付いて力任せに秀明から引き剥がした。
「明らかに日本語の使い方を間違ってるのは、美実姉さんの方だから! ちょっと離れて! お義兄さん、今のうちに」
「あ、ちょっと美幸! 何するのよっ!」
「ありがとう、美幸ちゃん。助かったよ」
話の邪魔をされた美実は憤慨したが、身体を起こした秀明は、心からの安堵の溜め息を吐いた。
(一対一で気迫負けするとは、俺とした事が。さすがは美子の妹と言うべきか)
そんな事をしみじみと考えてから、秀明は改めて美実に向き直る。
「美実ちゃん。さっきの話の続きだが、来週の週末辺りにでもここに出向くように、該当者に声をかけよう。俺がちょっと頼めば話を聞いてくれる素直な後輩ばかりだから、心配要らないから」
それを聞いた美実は、満面の笑みで礼を述べた。
「ありがとうございます! やっぱり美子姉さんの結婚相手は、お義兄さんしかいなかったわ!」
「そうかい? 取り敢えず今日は色々あって疲れただろうし、早く休んだ方が良いんじゃないか?」
「そうします。それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
そして機嫌良く自室に向かった美実を見送ってから、美幸は心配そうに義兄に尋ねた。
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