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生まれて初めてのニューヨークの百万ドルの夜景を見つめて、その綺麗さから溜息を漏らす私を、後ろから豆太郎が力強く抱きしめる。
耳元で何度も囁かれる甘い言葉が、くすぐったかった。今までの微妙な距離を埋めるかのように、私達はお互いを激しく求め合った。
昼は、二人でテーマパークや観光地を巡った。
ジェラートを買って、広場のベンチに二人並んで座る。こんなことをするのも、日本では簡単にいかないのだろうなと思いながら、豆太郎の横顔を見つめる。
ジェラートを食べながら、ふとあることを思い出して笑う。
「あたしと豆太郎って、まるでローマの休日の二人っぽいよね」
ローマの休日。世界中の女子が憧れる有名な恋愛映画。一国の王女が、一人の新聞記者と出会って恋に落ちる話。
身分違いの二人が、限られた時間の中で、こんな風にジェラートを食べたりベスパに乗って、ローマ市内を観光して楽しい時間を過ごすというものだ。
「ローマの休日って悲恋の話だろ、確か」
豆太郎が不服そうな顔をする。自分達は全然当てはまらないとでも言いたげな顔をするので、つい苦笑してしまった。
「そうね。あたしと豆太郎に身分の差なんてないけど、あたしは普通の一般人で豆太郎はプロミュージシャンで有名人な訳でしょ?他人の目をかいくぐって、束の間のバカンスを楽しんでる感じとか、なんか似てるかなって。ほら、こうやって自然な感じでジェラート食べたり。日本じゃ中々出来ないだろうから」
私の言葉に、あぁと納得したように豆太郎が頷く。
「ごめんな。当たり前のことをさせてやれそうになくて」
私は首を横に振って微笑んだ。
「違うの。ちょっと自分がこうしてたらアン王女になった気がして、嬉しくなっただけ」
すると、豆太郎がジェラートを口にしながらしれっとした表情で私の顔を見て呟く。
「それを言うなら、立場的に考えて俺がアン王女で、お前が新聞記者の方じゃないの?」
付き合うことになっても、ムカつくところはやっぱり変わらない。
ふんとそっぽを向く私に、豆太郎が冗談だよと笑う。
「仁香は世界で一番可愛いよ。アン王女よりもな」
豆太郎と接していて、ムカつくというキーワードに、溺愛という二文字が新たに仲間入りし、怒りたいやら恥ずかしいやらで、反応にすこぶる困る。
「そのうち、まとまった休みがとれたらローマにも行こう」
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