第1章

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豆太郎がそう言って微笑む。 付き合うとなってから、私に恋愛フィルターがかかっているのか、豆太郎のこの笑顔に、いつも胸キュンしてしまっている自分がいた。 その胸キュンしている自分に、あり得ないと思っている自分との折り合いを心の中でつける作業が、暫くの間必要となりそうだ。 いつか、豆太郎とローマか。 そのいつかが、いつになるのかは分からないけれど、私には妙な確信みたいなものがあって。 それは、多分私はこの先もずっと、コイツの傍にいることになるのだろうなということで。 「うん、楽しみにしてる」 私は豆太郎に微笑みながらそう返事を返した後、ニューヨークの真っ青な空を見上げた。 こうして、楽しい時間は瞬く間に終わった。 日本に帰ってきてからは、奈津とレン君に豆太郎と付き合うことを報告した。二人は良かったねと祝福してくれた。 奈津は、私の有給休暇の代償として行くことになったゴルフコンペで、松永専務に散々こき使われたらしい。物凄く疲れたけれど、やった甲斐があったと苦笑いしていた。 好きな子をわざといじめる心理ね。 当日の松永専務と奈津とのやり取りを想像しただけで、笑みがこぼれてきた。 レン君が、そのうち此処へ豆太郎を連れてきてねと言うと、奈津も会いたいと意気込んでいた。私は二人に、近いうちに豆太郎を会わせることを約束した。 料理教室に行って、ヴィヴィアンナちゃんとママにもそのことを報告した。二人ともとても喜んでくれた。ママは、目の周りがアザみたいな色になるほど号泣してくれて。その顔を見て、ヴィヴィアンナちゃんと堪らず二人で大笑いした。 恭子ちゃんは、豆太郎のことが本気で好きだったようで、店も休みがちでひどく塞ぎこんでいるとのことだった。 心配する私に、ママがそのうちボディビルダーばかりを集めて合コンするから大丈夫だと、ブラックホールのような目でウィンクしてくれた。 職場は、私の抜けた穴を生田君がカバーしてくれていたみたいだけれども、やはりバタバタしていて。暫くは、課長に嫌みを言われながら残業する忙しい日々が続いた。 多美子には、旅行から帰ってきてから豆太郎とのことは何も言わなかった。けれど、なにやら気がついている様子で、お土産と私を交互に見ては、わざとらしい感じでニヤニヤしていた。
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