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予期せぬ海音君達の結婚式での豆太郎のプロポーズの後、私はようやく両親に自分達のことを告げた。
多美子は満面の笑みで小躍りしながら喜び、父はチッと舌打ちしながら新聞を広げていた。
昔からの隣人同士で、お互いがお互いを誰もが知っているという状態だったけれど、一応お互いの家に挨拶することにした。
豆太郎が、スーツ姿で再び髪も短く切って髭も剃って家に来た。
いつものだらけた格好しか間近で見ていなかったうちの両親は、みちがえた豆太郎の姿を見て、一瞬ポカンと口を開けていた。
父はすぐに気を取り直して気難しそうな顔をしていたけれど、多美子はいつになく嬉しそうで。当事者ではないのに、やたらとおめかししている多美子が面白かった。
「お義父さん、お義母さん。お嬢さんを、僕に下さい」
テーブルを挟んで、向かい合ってソファーに座っている私の両親に、豆太郎が頭を下げる。
父は固い表情で、頭を下げ続ける豆太郎の姿をジッと見つめていた。
お父さんと多美子に促されて、父はようやく重い口を開いた。
「いつまで下げてるんだ。いい加減頭を上げろ。以前にも言った筈だ。仁香が良ければ許してやると。仁香、お前は本当に豆太郎で良いんだな?」
頭を上げて私を見つめる豆太郎に、微笑む。それから、父に向かって告げた。
「うん。豆太郎が、良いの」
私のはっきりした迷いのない口調に、そこで初めて父は小さく笑みを浮かべた。
「お前が良いなら、それで良い」
その後すぐ、今度は豆太郎の家に行った。
家が隣同士というのは、こういう時に役立つものだなと染々思った。
豆太郎の家に入ると、おじさんもおばさんも私を笑顔で迎えてくれた。
私の家の挨拶の時とは違って、緊張感など皆無だった。
「隆司の奴、さぞかし機嫌悪かっただろうな」
そう言っておじさんが笑う。隆司とは、私の父の名前だ。
豆太郎がネクタイを外して、ソファーにもたれながら天井を仰ぎ、そうだなと疲れたように頷く。
「今晩、うちで皆でご飯食べましょうよ。お寿司も電話して予約してるし。今、色々と作ってるところだから。仁香ちゃん、お父さん達に伝えておいて」
おばさんが弾んだ声で私にそう言って、軽い足取りでキッチンへと向かう。
こうして、両家への挨拶、両家の顔合わせは、たったの一日で済んでしまった。
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