第1章

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 アイスコーヒーを半分飲んだところで、ようやく待ち人の一人がやって来た。 今日も、私はいつものカウンター席に座っていて、待ち人の一人が私の左側へと座る。 「遅い、遅刻」 お陰で、随分色々な回想が出来たけどね。 帽子を被ってサングラスをかけているその人物が、やってきた店員の女の子に、私と同じくアイスコーヒーを頼んでから答える。 「遅刻ってほどの遅刻じゃないし」 黒の無地のTシャツに、細身のダメージジーンズを履いた豆太郎が、私の隣に座っている。 そこへ、休憩から戻ってきたレン君がやって来た。 「初めまして。この店のオーナーのレンです。お噂は奥さんからいつも伺ってますよ」 いつもの天真爛漫な笑みを浮かべながら、レン君が豆太郎に挨拶する。 奥さん。 そう。ミラクルとは、この半年の間に、私が豆太郎の奥さんになったことだ。 両家でご飯を食べようとなったその日。 豆太郎が、いつの間にか用意していた婚姻届をその場で書くことになり。 丁度家族が集まっていたので保証人の部分もすんなりと書いてもらえた。 豆太郎の音楽事務所の方には、いつでも結婚して良いよという返事を貰っていた。 普通、ヴォーカルが結婚して、もう一人の人気のあるギタリストが結婚するともなれば、事務所は反対する筈だ。 私はその現場にいなかったから詳しくは分からないけれど、実際どうやら一悶着あったらしい。 最終的に、豆太郎が、結婚を認めなかったら事務所を辞めると言ったそうだ。 豆太郎に辞められては困るということで、事務所側は渋々了承したというのが、事の顛末らしい。 足立さんが、本当に横暴だよねと苦笑混じりに教えてくれた。 そんなこんながあり、その日の深夜、私達は婚姻届を夜間窓口へと提出しに行き。 めでたく夫婦となった。 けれど夫婦といっても、そんなに特に実感はなくて。 入籍してから数ヵ月が過ぎたけれど、私は未だに実家にいるし。 豆太郎とは、そんなにしょっちゅう顔を合わせている訳でもない。 今日だって、一週間ぶりの再会なのだ。 「奈津ちゃんって子はまだ来てないの?」 「うん。普段は遅刻とかしないんだけど。何かあったのかしら?」 私が首を傾げていると、レン君がデザートの飾りつけをしながら推測を立てる。 「もしかして……有名人に会うからって、服何着ていこうで未だに部屋で迷ってる、とか?」
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