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「今日は…一緒にいてもら…」
涙が零れてきて上手く話せない。必死に理解しようとしても自分の中に収まりきれず溢れだした感じだ。
「一緒にいようと思ってたけど…これ以上居るともっと辛くなるから」
『私が?それともアナタが?』
清水さんですら、今は悲しそうに下を見つめている。こんな気持ちのまま別れなければいけないという現実から目を背けたかった。
可愛い洋服もメイクもアナタと一緒に居たい為のアクセサリーだったのに、輝きを失ったみたいだ。
お金持ちの事情はよく分からないけど、そこまでしてお母さんの言う事聞かないといけないの?
自分の気持ちってないの?と勝手な事ばかり頭の中から出ては消えていた。
「僕も…浜田さんの事…」
言いかけて止めてくれたのは、彼なりの優しさなのかもしれない。私が未練を残さないように…淡い期待を持たないように。
3ヶ月間が一気に甦ってきて、今言われた事の方が妄想なのではと勘違いしそうな位。
でも…
いつもと違う彼の暗い表情が、現実だと物語っている。
「雑誌の対談で呼ばれて、その時に婚約を発表されてしまって。もう好きな事を出来る時間は終わったみたいなんだ」
「………」
こんなに呆気なくお別れが来るとは思ってなかったが、それでも私が一緒に居たいのは変わりなかった。
「今日一晩だけ傍にいて…私を抱いて下さい」
彼のぬくもりを身体が覚えている。せめて最後に一緒に居させてと訴えかけている。
「その一線は…越えない方がいい」
立ち上がる彼に「お願い!こんな急に別れるって言われて覚悟が必要なの!」
更に涙が止まらなくなり思わずそう叫んでいた。
「そんな酷い事は出来ないよ…」
「酷くてもいい!忘れたくなるくらいに」
帰り支度を始める彼の表情を見て、困らせているのは自分でも分かっている。
「ごめん…やっぱり出来ない。今日はここに一人で泊まって。代金はもう済んでるから…」
彼と一晩も過ごす事さえ許されないと知った私は、清水さんの背中に呟いた。
「じゃあ、私の事が嫌いになった。もう顔も見たくないと言って下さい。こんな気持ちで忘れられない…」
清水さんは大きく深呼吸をして、口を開いた。
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