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「返事はゆっくりでいいよ?」
と言ってくれる所に大人の余裕が見えた。双碁さんがナポリタンに取りかかったので、そろそろ師匠も来る筈だ。
カランと音をたてドアが開くと、久々に見る師匠は穏やかに笑っていた。美味しそうに鼻をくすぐるナポリタンの香りが忘れていた食欲もくすぐる。
いつものように何も言わずにまずは腹ごしらえ。双碁さんはサンドウィッチを頬張り、みんな無心に食べていた。
「はぁ…やっぱりここの味は美味しいな…」
私がボソッと呟く頃には師匠達は食べ終わっていた。
「浜田さん…清水さんのどの辺が良かったの?」
イキナリの質問が師匠らしいが、過去形になってる語尾で別れたのがバレている。さすがの洞察力だなと思っていたが、言葉はすぐには出て来なかった。
「容姿は別として…やっぱリッチだから?」
改めて考えると清水さんの…やっぱ容姿かもしれない。一目惚れが多い私は、パッと見でキュンとくる事が多い。
「初めの印象がとても良くって…爽やかで優しくてイケメンだし…」
「いや…容姿は別って言ったんですけど」
「あ…すいません」
見た目以外は後から知って好き度が高まっていたので、特にコレと言って決め手は無い。
お金持ちだったのも知ったのは最近だし…女子力が高い事だって後付けで分かった事だ。
「う…ん。好きになるのに特に理由はないです」
「ダメだよそれ。経済力は肝心だよ?後は食事の好みとかもね」
双碁さんが会話に参加すると急に現実的な話しになった気がする。
「あの人、資産家の息子だったんだね。やっぱお金持ちがいいのかと思った」
「いえ、私が知ったのは最近だから…そこは重視してなかったです」
「そっか…でも『金持ち』っていうのが項目に入ってるならこの場の二人も当てはまってたんだけどな」
師匠がそう言うと、双碁さんが笑いながらコーヒーを口にしていた。 励ましてくれるつもりなのかは分からないが、彼にしては珍しいコメントだと思った。
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