涙色アクセ

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私は何とも言えない表情で微笑み、場をやり過ごそうとしたが双碁さんが後に続いた。 「泉ちゃん困ってるよ?琥珀が妙な事言い出すから」 「変な事口走ったつもりはないよ?双碁が口説いたから聞いてみただけ」 師匠はいつの間にか私が双碁さんに言われた事まで勘付いている。恐ろしい察知能力に驚きつつ、頭はまだ状況についていけない感覚だった。 「怖っ…!?何で分かんの?」 「長年の付き合いだからその辺は…ね」 アイスコーヒーを準備していた双碁さんは苦笑いをしていたが、変わらずポーカーフェイスの師匠に思わずクスッと笑いが出てしまった。 「浜田さんはそれでなくちゃ。いつも何かを発見して楽しく生きてるって感じがいいんだから」 「…有難うございます」 力の入ってないエールが今は逆に馴染んで、笑えた自分にも正直驚いていた。もっと暫く引きずって生活すると思ってたので、拍子抜け…というのも変な言葉だけど、何か切り替わった気がする。 その後も普通にコーヒーを御馳走になったが、それ以上清水さんについては聞かれず、株の話を少ししてお開きとなった。 好きな物が胃に入り、大人な二人の態度のおかげで、行きとは違い帰り道は気持ちに少し余裕が出来てる気がした。 師匠が見送ってくれ、そのまま帰るつもりだったが何となく降りたくなくて、2つ先のバス停で重い腰をあげた。 何の目的もないし、歩いて帰ろうという気持ちもない。ただ真っすぐ帰ってしまうのが勿体ない気がして、気ままにフラッとしてみようと思った。 頭を空にして知らない道を見ていると、ちょっとした現実逃避になる。 ここは少し街寄りなので、オシャレに隙が無い人が折りたたみ自転車を走らせていたり、小奇麗にしたマダムが日傘を差して歩く姿が目立つ。 『私もサロペット欲しいな…』 人の格好を観察しながら自分の欲しい物をイメージ出来るようになるのは、きっといつもの私に戻ってきている証拠だ。
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