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久々の外出となるその日は、メイクをして日焼け止めを塗って…女性らしい一面を思い出させてくれた。
それまでの毎日と言えば、細かい作業に加えて一人暮らしという事もあり、お腹が減ったらシリアルかパンで済ませ、無くなればコンビニまで歩いて行くという内容。
仕事としては注文も入り充実していると言ってもいいが、それ以外は女性であるという事を忘れかけてしまっていた。
出かける時も楽な格好でスッピン、日差しよけに麦わらのハットを被るだけ。作業が一段落するとネットの株のチェック。
時が経ち引きこもり気味な生活をしていると、彼の事は薄らいできたが、何となくこのままではいけないという焦りも出始めていた。
師匠からのお誘いが入り、外出するきっかけがあると、面倒だけど日光を遮断するような生活をしていた私には必要な事かもしれないと思える。
可愛いアクセを作れたのはいいが、こんな環境だといいアイデアも生まれない気がする。でも中々自分の為だけに動くのは後回しになってしまう。
『作ってあげる人がいる』食事と、食べれればいいだけの食事と同じような感じだ。
「さて出かけるか…」
日傘をさしバス停に向かうと、外は暑いが秋色を意識した女性がチラホラといた。濃いテラコッタ色のトップスに細かいプリーツのスカート。
「私も欲しいな…」
今日は涙色アクセもつけて、まだ晩夏の格好の私だけど、一足先の秋色を見ると洋服も欲しくなるし、アクセも秋色を意識した物が欲しくなってくる。
バスに乗ると回りの格好をさり気なく見ては、次のアイデアを頭の中で思い描いていた。
バスを降りると今度はオフィス街。ここはまだ晩夏というより夏の格好の人が多く、私の姿もそんなに浮いていない。
カフェイマリについてドアを開けると、双碁さんが変わらない笑顔で迎えてくれた。
「なんか久々…って感じだけど、そんな経ってないんだよね。元気だった?」
「まぁ…なんとか」
「でも目に少し力が戻ってる気がする」
アイスコーヒーを準備しながら双碁さんにそう言われると、自分が少し立ち直った気持ちになり何となく嬉しく思えた。
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